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真剣な顔でメガネ……遠藤が言ったが、内心“でしょうね”と思う俺。
突然知らん奴に『お前童貞か?』と訊かれても正直に答える奴の方が稀だろう。俺でも違うと言い切る。
「もちろん嘘の場合もあるから疑わしい者には質問を変えた。“綾瀬真緒をどう思う?”とな。
ほとんどの男が『可愛い』『綺麗』『抱きたい』と言い、たった一人だけ『嫌い』と答えた」
「じゃあそいつ、もしかして……!」
「そうだ。彼は『新田くんに甘えてずるい』と綾瀬真緒に嫉妬していた」
思ってたんと違うッ!
「ちなみに彼は『新田くんに激しく抱かれたい♡』と言っていたがどうする?童貞を卒業出来るぞ?」
「どうもしねぇよ! 誰だよそいつ。怖ぇーわ!」
「残念だ。童貞じゃなくなると綾瀬真緒がどう見えるのか検証出来るチャンスなんだが」
「……そもそも童貞は無関係なんじゃねぇか? 全員卒業済みとかありえねーし」
「それも考えて女子にも質問してみたぞ」
「おまっ……なんて事を女子に……。勇者か!」
「さすがにダイレクトに訊けないから綾瀬真緒の印象を質問したところ、まぁだいたい『超美人』とか『綺麗すぎて凹む』とかそんな感じだな。綾瀬真緒に恋心を抱く女子もいないようだった」
「あーそういや、真緒の事綺麗とかみんな褒める割に女子に告られた話は全然聞かねーな」
「ふむ、男のみ狂わせるフェロモンという説も視野に入れとくか。例外はお前に抱かれたいと言った男だけだな。
何にせよ、どれも確証を得るものがない。完全に行き詰まりだ。僕とお前の共通点である童貞もたまたまかもしれない」
眉をしかめてピカピカのレンズを拭き続ける遠藤。
俺自身、仲間がいただけでもう満足だが、彼はそう思わないのだろう。
「……共通点って言えるかわからんけど、少なくとも俺とお前は真緒を抱きたいなんて思わないよな。
だからもう一回真緒を嫌ってた奴に詳しく聞き出してくれ」
「なるほど、わかった。まぁ、お前も機会あれば早く童貞を卒業してくれ。何か判明するかもしれん」
「その言葉、そっくりそのまま返すぜ!」
「すまん。僕は宗教上結婚するまでそうもいかんのだ。では、またな」
遠藤と別れた後、じゃこ目顔の男とすれ違ったが、その時小さな声で『抱いて』と囁かれ俺は自分史上最速で教室に戻った。
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