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教室に真緒はいなかった。
ウンコかな? と思う俺に『あ、新田くん。綾瀬くんさっき保健室に行ったよ』と委員長。
黒髪三つ編み・フチなし眼鏡の委員長はとても真面目で優しい。
個人的に将来幸せになって欲しい子No.1である。
「具合悪そうだった?」
「うん、顔色あまり良くなかったかも。
フラフラしてたから“一緒に行こうか?”と聞いたけど、“大丈夫”って言って……」
「そっか。委員長ありがとう。俺、ちょっと見てくるわ」
○
保健室の入口に【入室禁止】とプリントされた札が掛かっていた。
そっとドアに耳に当てる。うん、誰か喘いでるっぽい。
99%真緒の声だと思いつつ、残りの1%は可憐な美少女と大胆なお姉様の禁じられた遊びであって欲しいと祈る俺。
スパイのような手付きで入室。茶色い奴発見。あと白衣。今度は保健医が狂ったのか。
保健医が茶色の胴体をひたすら舐め回している。
あーーコイツはあれだ、なんかの妖怪。垢舐めだっけ?
熱心な考古学者でも埴輪や土器を舐めたりしないだろう。見れば見るほどシュールな絵面。
『やぁっ……せ、せんせい……やめて……あっ』
苦しそうな真緒の声。
やめたれよ先生。不調の生徒を襲うなんて教師失格だろ。
俺は静かにスマホを起動。音が出ないように押さえて撮影開始。
『愛してる真緒ッ……! 俺だけのモノになれ!』
『あっ……だめ……やだっそれやだ! やめて……せんせい……お願い……』
『真緒! 真緒!』
無の境地でそれを撮影。
もちろん、俺の趣味ではなくイケメンを鼻にかけ雑な仕事しかしない奴の愚行を教育委員会に突き出す為だ。
腹痛で苦しむ俺に『気合いで治せ』とせせら笑った報復も含まれている。
『やだやだやだぁっ!』
耐えろ、真緒。もう少しでこのド鬼畜を葬り去れるぜ。
そして次は黒髪ロング眼鏡の優しい保健医(女性)が来るのを願おう。
ド鬼畜が上体を起こしベルトを緩めた。
その瞬間、真緒と目が合う。
『いやっ、智樹ッは、はやく、あっ…と、ともっ智樹!! は、はやく! あっ……智樹ッ』
おいこら真緒! 喘ぎながら俺を呼ぶな!
こっちに振り返る保健医。白衣の下からエゲツないものを出していた。
「そこまでだ! 変態ハニワ舐め男! お前の悪事はまるっと保存済みだ!」
俺は好きだった映画のセリフを真似てスマホを掲げた。
「新田……! お前、授業中のはずだろ! なぜ……」
「真緒、動けるか?」
叫ぶ変態ハニワ舐め男を無視して真緒の側に行く。
逆上した保健医より真緒の体調が心配だ。
「……肩、貸してくれたら、自分で歩ける」
「無理すんな。俺が病院まで連れてってやる」
「新田! 俺の真緒に触るな!」
下半身を剥き出しにしたままの保健医。
普段とは違う苦しそうな息遣いをする真緒を見て沸々と怒りが込み上げてきた。
「“俺の“じゃねぇだろ。
真緒はお前の道具か? 苦しませても何とも思わねぇのか? ーーそれがお前の性癖なら、潰すぜ?」
保健医のそれが縮むのを確認し、俺は真緒を連れて出た。
『智樹、いつもごめんね』
焼き物の腕を器用に俺に絡ませて真緒が喋る。
「別にいいけど。てか、お前、もっと全力で抵抗しろよ。いっつも泣かされてるじゃねぇか」
「……必死で抵抗してるよ」
「お前な、弱々しくヤダヤダ言うと余計男を煽るんだよ。
南斗のレイみたいに『てめぇらの血の色は何色だァッ!』と怒鳴れ!それか陽気に童謡を歌え」
「……何で童謡?」
「突然、ぶんぶんぶんハチがとぶって歌い出したら相手も『えっどしたどした?』ってなるだろ? その隙にアゴパン腹ドンでやっつけろ。いいな?」
「……相変わらず智樹の発想は独特だね」
背中越しに真緒がふふっと笑う。
笑わせる為に言ったんじゃねーよ。お前、俺が来なかったら、壊されてたぞ。
『智樹が友だちで本当に良かった』
そう言って眠ってしまった真緒。
俺は複雑な感情を胸に、ハニワを病院まで運んだ。
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