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『智樹……いつもありがとう』
ズッと鼻をすする音がして真緒がぱっと顔を上げた。
「あと、変な事言っちゃってごめん。でも弱音を吐いたらちょっとスッキリしたよ」
「……真緒……」
「……そんな顔しないで。僕は大丈夫。結構打たれ強いんだよ?」
眉を寄せた俺に真緒はわざと明るく振る舞おうとしている。
余計な心配はさせまいと考える彼が健気で痛々しくてそしてそんな真緒に“お前、ハニワなのに鼻水とか出んの?”とか思っちゃった自分が恥ずかしい。
いや、正直真緒から人間らしい音が出る事に違和感しかなくて、さっきの艶めかしい声やリップ音とか全部『どっから出てんのそれ?』と叫びたくなるのだ。
そもそも真緒を押し倒す野郎共はちゃんと人間として見えてるのだろうか?
見た目がハニワだし、なんなら質感も素焼きの焼き物みたいでそれがゴトゴト歩くからめっちゃ不気味。
でも足音は人間のままで声も以前の真緒と変わらない。
真緒をハニワにしか見えなくなった当時、俺は部室で無理やり服を脱がせて彼を泣かせてしまった。
制服を剥ぎ取った体ーーいや、胴体は埴輪らしいフォルムをしていて触り心地は陶芸体験で作った土器そのもので。
だから俺の幻覚ではない事を証明する為、表面をガリガリ掻きむしり砂粒か何かを採取して然るべき機関に調べてもらおうと躍起になっていた。
まぁ、その様子を目撃した部員に止められたのは言うまでもなく。
それから真緒に避けられ彼と会話をしなくなり俺はハニワから解放されてわりと平穏な日々を過ごしていたのだけど。
ある合宿中の晩に、事件が起きた。
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