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突然のプロポーズ
遠く、眺めているだけだった。
話しかけることも、近付くことも出来ずに。
人の話題の的になっていた貴方の噂を聞くだけで満足して、憧れの中で膨れゆく恋心は、女性なら誰しも少なからず思っていたものだろう。
身分違い。雲の上の存在。
ミーハー的で、叶わないと分かっていて、ただ刺激のない毎日に彩りを添えたかっただけの、単純で簡単な思考で宿した想い。
貴方は、浅ましくもみだりな気持ちを持った女の、そのターゲットにされた人。
それだけの人だった。
あの時までは……
この国にはない黒髪に黒い眼、神秘的で崇高な異国情緒あふれる姿は数多の視線を釘付けにする。
長身で精悍な肉体に纏う正装は、最高位である騎士だけに許された白地に銀の刺繍が光り輝き、容姿と相まって恐ろしいほどのオーラを放っていた。
王の主催による夜会。
異界から訪れた貴方の、これまでに積み上げた奇跡のような功績を称え、本日も華々しく豪華絢爛に開催されていた。
乱れ飛ぶ談笑、奏でられる音楽に合わせ広間で優雅にダンスを愉しむ男女、開けられた大窓は手入れの行き届いた庭先へと続き、部屋の照明から外れ喧騒から休めるスペースが設けられている。
見習い侍女のわたしは、先輩の指示のもと全体を見回して、食事や飲み物の補充や貴族である紳士淑女の要望に耳を傾けて、忙しなく動き回っていた。
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