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「そ、それは……あ、貴方との密通を恨んだその女が、何かを企んだに決まってるもの」
「おかしな事を言いますね、俺がいつ貴女とそんな関係に? 冗談にしては笑えない話ですよ」
剣呑で鋭さを増した声を発するロウは、更にわたしを抱く腕に力を込める。少し痛い……だけど、抗議する声は出せない雰囲気だ。
「冗談ですって?! 手紙のやり取りも、今日の誘いも乗ったくせに何をっ」
「手紙? ああそれは貴女の拙い悪事が書かれたものの事かな。誘導されてるとも知らず、色々と面白い暴露をされてましたよね。おかげで裏を取るのが簡単に出来、大いに助かりました」
あんぐりと口を開け言葉を失ったセレーナから、周囲の視線は興味津々で好奇なものへと変貌し、一気にロウへと注がれる。
「ええと、内容は何でしたっけ? 英雄から俺に乗り換える為に、医師免許を持たない怪しげな者から堕胎薬を手に入れ飲んだって事?
それとも今日、俺と既成事実を作りたいとはしたなくも誘った事?……勘違いしないでね。乗ったのはフリだ。貴女を逃がさず監視する為のね」
「か、か、監視って……」
「堕胎薬を貴女に渡した者はすでに捕縛している。昔からの知り合いらしいね。そいつが吐いたよ。堕胎薬以外のものを貴女に渡したと……ワインに仕込む毒薬を。しかも今回が初めてじゃない。英雄の前に付き合っていた男爵も、その前の男も、前の前の男も、皆、貴女と関わった男は謎の不審死を遂げている。英雄と同じく血を吐きながらという、悲惨な死だ」
「ロ、ロウ! じゃ、じゃあレイは……」
「リリー、心配ないよ。すでに解毒薬を飲ませてある。あらかじめ毒の種類が特定出来てて良かったよ。何も言わず怖い目に合わせてごめんね」
「ちょっ、ローディ! まさか貴方、私を嵌めたの? ど、どうして……?」
「それを聞くなんて本当に頭悪いね。セレーナ、君は俺の大事な人を傷付けた。一度のみならず二度も三度もだ。それがなかったら、こんな公の場で捕らえられる恥を味わう必要はなかったのに。君は俺を本気で怒らせた。懺悔は牢屋の中でするといい……連れて行け」
ロウの合図で連れ出されるセレーナは、最後まで罵倒と激しい抵抗をしていたけれど、それに憐れみを向ける者や止める者は誰一人としていなかった。
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