君に捧げる贖罪

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気付いていながらマリーを寄越す心境を、ここで問う必要はない。 マリーを好きだと思う男なら、恋敵となる俺の挑発は退けてしかるべきだ。 何の感情も乗せないロードフェルド公爵から答えを引き出そうと、更なる追撃を口にしかけた直後、乱暴な響きで扉が開かれる。 マリーだ。 思わぬ登場に声を失った。 面食らっている隙にマリーは怒涛の勢いで話し出し、内容をようやく理解する頃には、マリー自身の感情も漏れ出していることに気付かされる。 分かっていたのに…… 本人の口から直接聞くのははたまらなく辛いもんだ。 ロードフェルド公爵がマリーを諌め、強引ではあるが大事なもののように優しく腕に抱き留める。マリーはマリーで大人しく抱かれながら、色を乗せた瞳で可愛らしい嫉妬をぶつけていた。 完全に蚊帳の外に置かれている。 二人の世界に入り込みそうな雰囲気を割って入って壊し、先程、聞くことの出来なかった答えを、強面を崩しまくっているロードフェルド公爵に投げつけた。 もう間違えるなよ。 マリーが俺に対して抱えるものは愛じゃない。 人を本気で好きになると、途端に臆病になる。嫌われたくなくて。自分が傷付いても構わない、痛みを負ったっていい、その人の為なら何だって出来てしまうんだ。 いつかのマリーのように。 苦渋の決断だっただろう公爵のように。 そして、今の俺のように。 幸せになれ。マリー。 もう俺なんか構わずに、好いた男だけを見続けろ。その一途さで、強い心で、ロードフェルド公爵だけに愛を捧げていけ。 この臆病な男の背を押すことが、お前にしてやれる最初で最後の俺の贖罪だから。 さようなら、マリー。 傷付けて捨て去って、それでも本気で愛していた俺の一番大事な人。
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