番外編 ラブモードでお送りします

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日の落ちかけた夕暮れ時、ロードフェルド公爵家の本宅に、一人の訪問客がやって来た。 名をニール・カルザーと言い、リリーを養女へと迎え入れた男爵家の嫡男である。 「ようこそおいで下さりました。お義兄様」 「連絡もなく急にすまない。私用じゃなく仕事なんだが……隊長はもうご帰宅されているかな」 「いえ、まだです。どうぞ中でお待ち下さ」 「ただいま。……ニール、同じ職場で働きながら連日連夜やって来る用件を聞こうか」 義兄を迎え入れる為に大きく開いた扉から、義兄を押し退けるようにして、息を切らしたロウがわたしと義兄の間に滑り込んでくる。 そしてなぜかその声は怒気を孕んでいた。 「こちらの書類にサインを貰い忘れておりました。緊急の案件です。どうかお目通しを」 「貸せっ!」 「お義兄様、この後はすぐにお発ちに? せっかく来たんですもの。お時間が許されるなら一緒に夕食をいかがでしょうか」 「リリー、甘やかすな。こいつの魂胆は分かっているんだ。ほら、サインしたぞ。用は済んだよな。これを持って今すぐ帰れ」 乱暴に奪った書類に胸元に挿したペンで慌ただしくサインを済ますと、ロウの手で握り潰されくしゃくしゃになった書類をそのままニールに突っ返している。 「そうしたいのは山々ですが、可愛い義妹の申し出を無下にするのもどうかと……リリー、隊長は帰れなんて言うけど僕としては君の手料理を食べていきたいんだけどなぁ」 「ぜ、是非どうぞ。ロ、ルイスもいいわよね?」 ロウの身体を挟んだ会話を終え、背中越しに問いかける。引き攣る顔が見え、揺れる赤茶の瞳が見え、その後絞り出すような声音の了解が降ってきた。
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