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ここに来るのは久しぶり。
絢爛豪華なロードフェルド邸と違い、こじんまりとした、と言っても、大きな屋敷に変わりはない馴染みの場所に足を踏み入れる。
「こんにちは、カレンさん」
「リリー!」
驚いていたのは一瞬で、わたしを認めるとすぐに駆け寄りふくよかな身体で目一杯抱き締めてくれた。
結婚から半年。
貴族の結婚はする前よりした後の方が忙しく、届けられた多数の祝いの品へのお礼状やら挨拶回り、顔見せという夜会やお茶会の招待がやっと落ち着いたところである。
「一人かい?」
「はい。ロウは仕事です。終わったら来ると思いますけど……」
「おかしい事を言うね。思うってなんだい」
「こちらに居るという手紙は残し」
「つまり、ロウに黙って来たんだね」
「………」
鬼気迫る勢いのカレンさんに手土産を渡せば、出した土産じゃなく腕をむんずと掴まれた。そして強制的に座らされると、テキパキとお茶の用意をしながら質問という名の尋問が開始される。
「あのバカが何かやらかしたのかい?」
「いえ、ロウは何も」
「嘘おっしゃい。新婚なのに意思疎通が手紙なんておかしいでしょ」
「……忙しい時は会話もままならなくて」
「それこそあり得ないね。あんたを一途に想っていたロウが結婚した途端、釣った魚に餌をやらないような真似はしないよ。反対に仕事も何もかも放り出してデロデロに甘やかすなら分かるけど」
さすがカレンさんだ。
結婚する前も大概甘いロウだったけど、結婚してからはそれに拍車がかかっている。
遅れると言っているのに、朝は出るギリギリまで抱擁とキスを続け、夜は夜で帰って来た瞬間からずっと寝るまで愛の言葉を囁き続けていた。
嬉しいけど恥ずかしい。
恥ずかしいけど嬉しい。
複雑な心境だけど嫌じゃないと思ってしまうのは、わたしもロウと同じ気持ちだからだろう。
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