番外編 愛に試練はつきものです

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込み上げそうな涙を堪える為、歯を食いしばる。ロウはわたしの返しに、言われた言葉の意味を図りかねる様相をしていた。 「ああもうっ!見てられないよ!リリー、いいかい。あたしがロウに聞いてあげるよ! ……ロウ、あんた、リリーの他にいい人がいるんだね?」 対峙するわたしとロウの間に入り込んだカレンさんは、ロウの胸に指を突き付け凄んでいる。 「……何を、言って……?」 「とぼけんじゃないわよ。あんた昨日、リリーと街に出掛けたんですってね。そこで誰かと会わなかったかい? どんな会話したか覚えてるでしょ」 「……ちょっと待って。それはっ」 「リリーが買い物に夢中になっていると思って油断してたようだけど、あんた達の交わした会話はリリーに聞かれているんだよ」 分かったなら今日は帰りな、とロウを追い出しにかかるカレンさん。わたしは俯いてロウから目を逸らすも、昨日の会話が頭を離れなかった。 義兄であるニールの誕生日を控え、プレゼントを買う為に街へ出掛けたけれど、ロウは適当でいいと身も蓋もないことを言う。 選ぶ気がないロウを店の外で待たせ、悩んだ末にようやく決まったものを買って出れば、ロウはこちらに背を向けて誰かと話し込んでいた。 話の腰を折るのはどうかと思う。だが知り合いなら妻として挨拶せねばと近付き、聞こえてきた声に立ち止まる。涙交じりの女性のものだったから。 『 本当に信じていいの? 』 『 うん。君が好きなんだよ 』 『 待ってていいのね? 』 『 勿論だよ。近い内に必ず迎えに行くから 』 息が止まる。 ロウの手が慰めるように女性の肩に置かれた瞬間、わたしは店内に逆戻りしていた。 心臓が物凄い勢いで早鐘を打つ。 身分の高い者が正妻の他に愛人を持つのはよくある話だ。レイのように大っぴらでなければ珍しいことではない。 わたしは何て思い違いをしていたのか。 ロウに愛されているのは自分だけだと、今の今まで自惚れていた。
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