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「ちょ、ロウっ!」
「悪い、カレン。俺はリリーの誤解を今すぐ解かなきゃならない」
バンバンと扉を叩く音に顔を上げる。
追い出されたはずのロウが目の前に居て、部屋の外からはカレンさんの喚き声が聞こえていた。
「泣かしたら承知しないからね!」
「しない。約束するよ。だから少し、二人きりにさせてくれないか」
響いていた音が鳴り止む。
ため息と了承を告げるカレンさんに、ロウはホッと息を零した。
静寂が支配する部屋の中、口火を切ったのはわたしだ。一気に話さなければ、また醜い感情が出てしまいそうで怖かった。
「立ち聞きしてごめんなさい。わたしは公爵家に嫁いだ妻です。ロウが彼女を迎え入れるつもりなら、それに意を唱えるつもりはありませ」
「それ以上言ったら怒るよ」
「………」
言うも何も、先を紡ぐ言葉をロウの手によって塞がれている。唇を覆う手の平の熱、真剣な色を宿した瞳に射抜かれた。
「まず、言わせてね。俺はこの先、君以外の誰かを好きになることはないし、ましてや愛人なんて持つ気はさらさらないからね」
「っ、では、彼女を捨てるのですかっ! あんなに貴方を慕い信じている者をっ」
激しい思いが突き上げる。ロウの手を振りほどき咄嗟に叫んだのは、彼女を愛人にと勧めたいわけじゃなく。
ロウがレイのような仕打ちを女性にする人だとは思わなかったのだ。ううん、レイより酷いかもしれない。レイは過去の裏切りに傷付き、わたしにそれをぶつける事で内面を保とうとしていた。
じゃあロウは? ロウにはどんな理由があるの?
カレンさんの見立ては間違っている。
堅物だと言う割に、キスも夜の行為も妙に手慣れた感じがして……
「リリー、正直に言うよ。確かに俺は若い時分、それなりにバカをやっていたと思う。だけどそれは、君を好きになる前の話だ」
「か、彼女とはそんなに長く……?」
「違う。彼女と男女の仲になったことは誓ってない」
眉間に皺が寄ったと思う。
ロウが嘘をつくから。
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