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わたしはこの耳で間違いなく聞いたのだ。
ロウの言葉は到底信じられない。
「分かった。身の潔白を証明するから少しだけ待っててね」
言うなりロウは、部屋の窓から外に向けて大声で叫ぶ。屋敷の前で待機していた部下へ。ニールを連れて来い、と。
どうして義兄を呼ぶのか。
これはロウとわたしと彼女の問題であって、仲裁役を頼むつもりならお門違いってものだ。
憤るわたしに構わず、しっかりと胸に抱き込んだロウはあちこちにキスの雨を降らせる。
なんだか誤魔化されているような気がして余計に腹が立つ。キスを避け、身をよじる。が、どんなに嫌がってもロウは離してくれないしキスもやめなかった。
そうこうする内にニールが部屋に入って来る。昨日の件をドスの効いた声でロウから聞かされたニールは、途端に青ざめ平謝りだ。
聞けば、彼女のお相手は我が義兄であるニールだったらしい。本命の彼女がいるにも関わらず、他の女性にも粉をかけまくりだったようで。
不安になっていたところ、昨日バッタリとニールに近しい人間であるロウを見つけ、つい問い詰めてしまったという事らしい。
運の悪い事に、話の前後を省いて聞いてしまったわたしは、ロウを疑い、なじり、挙げ句の果てに愛人を許容する発言までしてしまった為、ロウの怒りたるや凄まじい勢いでニールに向けられてしまった。
大変申し訳ないが、ボロクソに罵られるニールに同情することも助け船を出すつもりもない。
いい人だと思っていたのに。
少しばかり軽蔑したのは言うまでもなかった。
「リリー、ごめんよ」
「俺にも謝れ、ゲス野郎」
「……悪かった」
「素直だと逆に気味が悪いな。もういい。さっさと彼女に会いに行ってやれ」
そうするよ、と、これまた素直に出て行く姿をロウと二人で見送り、ふっと強張っていた身体の緊張を解く。
……良かった。間違いで。本当に。
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