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庭師にもなれない。
土いじりで毎日を終えることに後ろめたさを感じていたわたしは、強行突破でお手伝いさんの仕事を奪う覚悟で台所に立つ。
ロウに言っても聞き入れてくれないのだから仕方ない。このまま、仕事らしい仕事をしないのは、部屋も食事も無償で提供されている身としては頂けない。
「あらあら。奥様がそんな事をされなくてもいいんですよ」
「……は?」
「違ったのかい? でもあんた、ロウのいい人なんだよね。あの堅物が若い女を屋敷に招くなんざ、初めてのことだし」
「ちちち違います! わたしはそんなんじゃ」
大変だ。勘違いされている。
詳細な経緯は話せないけど、彼は命の恩人だと説明して納得してもらった。
「なーんだ。あたしゃてっきりそうだとばかり思っていたよ。ところであんた、名前は? いくつなんだい?」
そう言えば自己紹介もまだだった。
すでにジャガイモの皮を剥き、ボールに放り込んでいたから、そっちのけになっていた。
「リリーと申します。年は21歳……いえ、もうすぐ22歳になりますね」
「リリーちゃんね。あたしはカレン。この屋敷では古株になるよ。年はまあ、あんたの倍以上生きてるってことで詳しくは聞かないでおくれ」
カレンさんは週3で勤務しているらしい。
旦那さんと死別して、路頭に迷っていたところ、ロウにこの仕事を斡旋してもらったそうだ。なので、カレンさんはロウに凄く感謝している。
「あの子は女の扱いに慣れてない堅物な男だけど、とっても優しい子なんだよ。年も25歳で年齢的に釣り合いが取れてるし、もう少し愛想のいい顔をしたらモテる部類だと思うんだけどねぇ……」
最近腰を痛めたので手伝いは正直有難いと言われ、快くわたしの行動を許してくれたけれども。
なぜか、カレンさんがしきりにロウをわたしに勧めて来る。
……話を逸らすのと手を動かすことに集中しよう。
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