平穏と乱れる想い

3/8
前へ
/153ページ
次へ
「最近、カレンと仲良くしているそうだな」 一瞬、言葉に詰まってしまう。 夕食の用意をし終えたカレンさんが帰った後、いつものように二人で食後のお茶を飲んでいたら、唐突に言われてしまったから。 勝手なことをしていることがバレている。 怒られるのだろうか……と身を竦めた。 「責めているわけじゃない。ただ、その……カレンはお節介焼きだから、君が困ることを言ったりしてないか気になって聞いただけだ」 手伝いが気にいらない、というわけじゃないらしい。ロウはわたしの境遇を、知られたくない過去のせいで、嫌な思いをしていないかと気に掛けてくれているのだろう。 カレンさんはパワフルな人で、頼りになる存在だと答えておいた。まるで母のような、という言葉と、貴方とくっ付けようとしています、という言葉は心に秘めて。 時間制のおかげで、夜はこうして屋敷にロウと二人きりになる。 朝や昼は食事を共に出来ないから夕食と食後のお茶は一緒に、という謎のルールを作ったロウに従っているけれど。 これがカレンさんの勘違いを増長していることに、彼は気づいていない。 今日も帰りがけに「男は少々、強引に行かねばならない時があるんですよ」と、割と真剣な顔でカレンさん言われていたロウは、「?」って感じだったことが幸いだ。 ロウは良い人だ。ぶっきらぼうだけど、不器用なだけで本質は優しい。 顔も嫌いじゃない。黙っていると怖く見えるが、内面の温かさに触れた身としては、その相反する表情も彼の魅力の一部に思う。 だからこそ、だ。 ロウには素敵な女性と出会ってもらいたい。 間違ってもわたしのような、汚れ切った身体と、元夫に捨てられる性根を持った女などと、これ以上、仲を疑われるわけにはいかない。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

921人が本棚に入れています
本棚に追加