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カレンさんは事あるごとに、わたしとロウに冷やかす言葉を投げかけてくる。
ちょっとした立ち話をしている時や、なんてことのない見送りと出迎えの際において。
最近では、毎食必ず鰻やとろろなどといった、いわゆる精のつく食べ物を山盛りロウに出すもんだから、鈍い彼もようやくカレンさんの思惑に気付いたらしい。
「たまには違うものが食べたいんだが…」
「では、明日はすっぽんの生き血が入ったスープと、干からびた男にも絶大な効果があると巷で人気の牛の睾丸を、丸焼きでお出しします」
「……もういい」
ロウの抵抗をやすやすとねじ伏せて、更なる悪化を持ち出す辺り、カレンさんはなかなかのやり手だ。助け舟を出す隙さえない。
「それはそうと、一週間後の例のやつ、どうされるおつもりですかねぇ」
「なんだ突然……いつも通り友人の妹に頼むつもりだが?」
「バカ言っちゃいけませんよ。この場に相応しい相手がいるのに、愚鈍も大概にしないと逃げられますよ」
何の話かと思ったら、貴族特有の夜会の件だった。ああいった集まりにおいて、人脈を広げたり仕事に繋げたり、時には結婚相手を見つけたり、貴族社会では常識で大事な社交の場といえる。
パートナー同伴が基本で、相手を務める婚約者が居ない場合、ロウが言うように友人や姉妹に頼むのが普通だ。
「ねえ、リリー。あんたもそう思うだろ?」
「え、あ……そうですね」
しまった。全く聞いていなかった。
自分には関係のない話だと、意識を他に向けていたのが悪かったのだろう。
カレンさんのゴリ押しと、それに乗っかった形で返事をした為に、夜会への参加が決定していた。
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