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華やかな場所、華やかな装い。
侍女時代に何度も見た光景なのに、置かれた立場が違うだけで見るのも感じるのも、まるで別世界だった。
「やあ、ロードフェルド公爵。君が夜会に来るのも珍しいが、連れてる令嬢も見かけない顔だね」
「お久しぶりです。……オットー公爵」
絶句、というよりも、卒倒しかけている。
貴族だけれど、ロウは確かに貴族だけれど、分かっていたけれど、公爵って何ですか。
他人によって明かされた身分の大きさに、わたしの表情はいま、顔面蒼白を通り越し土気色になっているはずだ。
「背後に庇われるとは……よほどその娘にご執心のようですね」
「まあ、否定はしないかな……」
「ご紹介もしてくれないつもりですか?」
剣呑な響きにハッとする。
マズイ……わたしの様子がおかしい事に気付いたロウが、さり気なく前に出て隠してくれたけれど、それは相手にとって不快な思いをさせたことになる。
「ご歓談中、失礼致します。ご挨拶が遅れて申し訳ありません、オットー公爵様。私はリリーと申します。こちらのロードフェルド公爵様の遠縁に当たる者で、恥ずかしながら夜会にはまだ不慣れな点も多く、不躾な態度となったのであればお詫び申し上げますわ」
相手はロウと同じ公爵だ。
あまりへり下るのも失礼に当たる。
不遜とまでは行かないが、少々強気な感じで対応してもいいだろう。
咄嗟についた嘘の処理は、ロウに任せたい。
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