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言うだけ言って引き下がり、ロウの背後からオットー公爵を伺った。
金髪碧眼。見た目は王子様そのもので、ロウより若干だが年上だと予想する。
妙な既視感を覚えるのはたぶん、侍女時代に見かけた名残りなのだろう。
わたしの話に上手く合わせてくれたロウの話術により、オットー公爵の機嫌が良くなったところでやっと解放される。
離れ際、オットー公爵がわたしに、どこかでお会いしたことはないかと問われ、なるほど、この人はプレイボーイなんだろうと結論付けた。
ベタな誘い文句だ。
笑って誤魔化しておいたが、隣のロウが腰に回していた腕の力を強めたので、彼もまた気分を害したようだ。
オットー公爵は常識に欠けている。
人がエスコートしている相手にかけるべき言葉じゃない。せめて居ない時に言えばいいものを……短慮な男だ。
一発目から酷い奴に当たったおかげか、その後の会話は難なくクリア出来た。話し通し立ち通しで、碌に食事も飲み物も口にしていない。
見兼ねたロウが休憩スペースであるソファを勧めると、お酒の入ったグラスと取り分けた料理の皿を持って戻って来た。
「暫く休むといい。このまま俺に付き合っていると疲れるだろう」
「お気遣いありがとうございます」
「それはこちらの台詞だ。君は充分、務めを果たしてくれている。少し一人にしてしまうが、大丈夫かい?」
ロウだって疲れているだろうに。貴族の社交は思ったよりもハードだった。
大丈夫だと答えたら、知らない男に声を掛けられたら俺の名前を出せと言い残し、人の輪の中に戻って行った。
公爵の名の威力は、そんじょそこらの貴族にとったら恐ろしいものだろう。有難くお守りとさせて頂くが、そんな心配は杞憂だと思っている。
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