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ロウの足枷となるくらいなら、今すぐ屋敷を出て行こう。なんなら殺してくれたって構わない。
零した呟きは、鼻で笑われる。
『お前には、交渉を持ちかける権利も、出て行く権利も、死ぬ権利もない。噂の怖さは身をもって体験したはずだ。俺を怒らせる真似をしたら、真実はどうあれ、必ず公爵を破滅に追い込んでやろう』
それは、脅しを超えた呪詛だった。
あまり有る権力を持つ一部の者は、弱者の人生を深い考えもなく意のままに操ろうとする。
それがどんな結果を産むのか、想像することも気にかけることもしない。
もがき、悲しみ、打ちひしがれ、どうにもならない絶望に苦しみ抜く様を、見て笑って嘲りをする。
オットー公爵は、自分の快楽の為だけに。
わたしという弱者をターゲットにして、ロウを巻き込む形で遊び、おもちゃにし、そしてそれに飽きれば容易くゴミのように捨てるのだろう。
なんの罪悪も抱かずに。
「リリー。座ってくれ。話をしよう」
「ごめんなさい。疲れてるの。明日にし」
「それは昨日も一昨日もその前も聞いたよ。今日は逃がさない。俺を避ける理由を教えてくれ」
カレンさんが心配そうな顔で、わたしとロウを見ている。
夕食は共にするがお茶は固辞し、必要最低限の会話しかしなくなった。
昼間は昼間で、カレンさんと楽しく料理を作っていたのに、毎日ように外出する始末。
加えて、笑顔もない。食も細いとなれば、いつかは問い詰められると分かっていた。
「避けていません」
「嘘だな。目も合わせてくれなくなっている。不満があるなら言ってくれ。頼む」
貴方に不満など、あるわけがない。
心を上手に操れないわたしが悪い。
隠したいのに…気付いて欲しくないのに……
カレンさんの顔が、切羽詰まったようなロウの表情が。
痛くて、嬉しくて、辛かった。
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