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「お前に会わせたい奴がいる」
激しい情交の後の熱も冷めぬ内に、オットー公爵が言った。
寝台に投げ出した重苦しい裸体姿、呼吸も切れ切れで、ぼんやりした思考が上手く働かない。
腰にタオルだけを巻き付けて、情事を隠そうともしないまま扉を開ける様を目で追った。
服を着ろとは言われていない。
つまり、この状態でいいと言うことだ。
その意味に気付き、嫌悪が増す。
今日のお相手はオットー公爵だけではないらしい。……最低だ。夕方までに戻れる体力が残されているといいのだけれど。
わたしを慰み者にしたい次の相手が、オットー公爵の背後から部屋に入って来る。
諦めの中にある僅かな矜持を瞳に乗せて、その男にこちらの意思が伝わるよう睨み付けた瞬間……愕然とした。
「リリー、どうだ? 驚いたか?」
オットー公爵の意地の悪い笑みが、わたしに注がれる。虫ケラに対するような、何の憐憫さもない眼差しと共に。
「話だけじゃつまらないだろう。お前もヤルか? 溜まっているんだろ?」
「……ふざけたことを抜かすな。こんな男に見境のない女を抱く為に来たわけじゃない」
吐き捨てられた男の言葉も、鋭利で冷淡な黒い瞳も、酷くわたしの胸に突き刺さる。
動揺に乱れる心。
極度の緊張で引き絞られ縮こまる身体。
終わったことなのに、砕け散ったはずなのに、どうしてこんなにも貴方に翻弄されてしまうのだろう。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ期待してしまった。
愛した男に抱かれる夢を……見てしまった。
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