壊れゆく、堕ちていく

4/8
919人が本棚に入れています
本棚に追加
/153ページ
「お前に会わせたい奴がいる」 激しい情交の後の熱も冷めぬ内に、オットー公爵が言った。 寝台に投げ出した重苦しい裸体姿、呼吸も切れ切れで、ぼんやりした思考が上手く働かない。 腰にタオルだけを巻き付けて、情事を隠そうともしないまま扉を開ける様を目で追った。 服を着ろとは言われていない。 つまり、この状態でいいと言うことだ。 その意味に気付き、嫌悪が増す。 今日のお相手はオットー公爵だけではないらしい。……最低だ。夕方までに戻れる体力が残されているといいのだけれど。 わたしを慰み者にしたい次の相手が、オットー公爵の背後から部屋に入って来る。 諦めの中にある僅かな矜持を瞳に乗せて、その男にこちらの意思が伝わるよう睨み付けた瞬間……愕然とした。 「リリー、どうだ? 驚いたか?」 オットー公爵の意地の悪い笑みが、わたしに注がれる。虫ケラに対するような、何の憐憫さもない眼差しと共に。 「話だけじゃつまらないだろう。お前もヤルか? 溜まっているんだろ?」 「……ふざけたことを抜かすな。こんな男に見境のない女を抱く為に来たわけじゃない」 吐き捨てられた男の言葉も、鋭利で冷淡な黒い瞳も、酷くわたしの胸に突き刺さる。 動揺に乱れる心。 極度の緊張で引き絞られ縮こまる身体。 終わったことなのに、砕け散ったはずなのに、どうしてこんなにも貴方に翻弄されてしまうのだろう。 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ期待してしまった。 愛した男に抱かれる夢を……見てしまった。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!