絡まる心、ほどけぬ心

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ちょっと落ち着こう。 すっかり冷めたカップを手に取り喉を潤す。ロウには殴らない旨をきちんと伝えた後で。 過去の話は終えた。 この時点で続きをしなくてもいいだろうと思っていたのに、こんな展開になるとはカケラも予想をしていなかったので混乱中である。 要約すると、ロウはわたしの正体を知っていて、噂も知っていて、それが嘘だってことも知り得ていた。 それは、うん。分かったけれども。 分からないのは、息継ぎもなく流れる勢いで話された中身の方である。 「もしかしてですけど、ウチの執事……あ、もう違いますが、その、何かを託したりしたってことですか?」 「したよ。俺の名前と連絡先。それと、お金を少々……ね」 ……なるほど。 出て行く際に執事から受け取ったアレらは、ロウが用意したものだったのか。 紙は開けなかった。 死ぬつもりだったので見ても意味はない。 金貨と一緒にポケットに入れてたけれど、目が覚めて確認した時には無くなっていた。たぶん、狼藉者に金貨を奪われた際に落ちたのだろう。 「ロウがそうした意味が分かりません」 「……君を助けたかったから、だ」 「何、からでしょう?」 「全てから、って言ったらどう思う?」 聞いたのに聞き返されてしまった。 整理しようとした頭がまた困惑に染まる。 「悪い。答えなくていいよ。知りもしない奴から理由もなく、押し付けがましいことされたら気味が悪いよな。君が来てくれなかったのも当然だ」 「いえ……そもそも見てないのです。ただ、見たとしてもあの時の心情を思えば結果は同じでした。だから、ロウが謝る必要も気に病む必要もありません。全てはわたしの責です」 思えば最初から。 身の程も弁えず、真意を知ろうともせず、盲目になり惚けてレイに返事をしたあの時から、この結末は決定していたのだと思う。
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