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「レイは国の英雄であり国王に次ぐ権力を手にした男です。戦もなくなり、平和になっても、彼の功績は変わらず残るでしょう。ですが、彼はこの国の人間ではありません。神官が呼び寄せた異界の者……監視対象にならない方がおかしいですよね」
戦乱を鎮めるほどの強大な力を持つ者を、ましてや預かり知らぬ場所からやって来た者を、王が放っておくはずがない。
ロウがわたしを知っていたのも英雄の妻だったから。同じく監視対象として調べられていたのだろう。
「大き過ぎる権力は時に利用という悪しき習慣を生み出します。レイに群がる者の中に、レイの威を借りて狼藉を働く輩がいたとしても不思議じゃありません」
「……英雄自身が、とは思わないのか?」
揺れるロウの瞳に、暗にわたしがレイを庇ったことを咎める色が覗く。
監視の部分に触れないのは、やはり事実だからだ。
「レイは確かに……日々を享楽的に生きています。褒められたものではないでしょうが、彼はこの国の人々を救ってくれました。勝手に神官に呼ばれて、自分とは何の関わりもない国の為に」
そんな彼が、人を貶めるような真似をするとは思えなかった。人の為に自分の力を奮うことはあっても、正義だと信じてなければしないだろう。
レイは卑怯ではない。浅はかではあるが。
「国に尽くした彼を、国民たるわたしが見捨てることは出来ません」
「……分かった。君の好きにしたらいい。だけど忘れないで。俺がいるということを。手に負えないと思ったり傷付くようなことがあれば、必ず相談して欲しい」
「はい。お約束します」
「それと、乱暴なことしてごめん。怖がらせてごめん。殴っていいよ」
「……殴りませんってば」
どこまで出来るか分からないけど。
妻でもなく侍女でもなく、英雄を支える一人の人間としてレイの力になろう。
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