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情に溺れるひと時
わたしの下した決断に、真っ赤な顔をして怒ったのはカレンさんだった。
英雄が身勝手ゆえに招いた尻拭いを、なぜリリーがするのか、と。
レイの要望は簡潔である。
暴動寸前に追い込まれた領民の説得と、領地経営の立て直しだ。
散財が祟り、収入らしい収入もなくなり、国から出る補助金だけでは到底賄えない暮らしを維持する為に、何とかしろということらしい。
どうしてわたしが? と言う前にレイが話してくれたのは、お前が居る時は何の問題もなかっただろうという、何ともお粗末な言葉だった。
必要ない。放っておけばいい。ロウも了承するなんて気は確かですか。ばか者ですね。二人ともですが!
と、えらい剣幕で怒鳴り散らすカレンさんの気持ちも、凄くよく分かる。分かり過ぎるほどに……
けれど、僅かながらでも、わたしはレイの妻であり、領民に対する責任を負った人間だったから。
投げ出したつもりはない。
その最たる元凶はレイ自身にあるけれど。
やっぱり見限れないのだ。
愛した男と愛した男の領民達を。
レイの仕打ちを忘れたわけじゃない。今でも疼く傷は、これからも会う度にその傷口を広げるだろう。
痛みに耐えかねて、涙にくれる時もあるかもしれない。
でも、わたしは。
あの時のように一人きりではない。
ロウがいて、カレンさんがいて、帰るべき場所がある。それを用意してくれている。
これは甘えであることを自覚していた。
二人の優しさにつけ込んで、我を通した結論だとも思っている。
怒っていても、許してくれなくても、ほら。
ロウもカレンさんも渋い顔をしながらだけど、わたしがレイの屋敷に向かうのを送り出してくれている。
……夕飯時までには帰って来るようにと、カレンさんが言えば、迎えに行くからとロウが言う。
その気持ちが、わたしの心を明るく照らす。
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