920人が本棚に入れています
本棚に追加
/153ページ
自分のことで手一杯になってもおかしくないのに、どうしてロウはこんなにも……
他者を思いやり優しく出来るのか。
わたし然りカレンさん然り、彼に救われた人は他にもいるのだろうと、簡単に想像がついてしまう。
「リリー、俺は君にそんな顔をさせる為に話した訳じゃないんだけど……もう7年も前の事だし、俺みたいな境遇の奴はその当時は当たり前にいたんだよ」
「……だからと言って、ロウが辛くなかったわけじゃないでしょう」
レイがこの国に現れるまで、長引く戦争に皆が疲弊していた。家を失う者、家族を失う者、次は自分の番かもしれないと死の恐怖に怯え、その日その日をギリギリの精神で乗り切って……
闘いに駆り出される騎士も、武器を持たない民衆も、惨禍に塗れる国の中で必死に生きていた。
皆が同じだったからといって、耐えるべきでも気持ちが軽くなるわけでもない。
「そうだね。でもそれ以上に公爵の身分は重くて大変だったから。ガラじゃないし、出来るなら手放したいっていつも思ってるよ」
「そんなことっ……ロウは立派な方なのに」
「君の方こそ。自分は傷付いても英雄のことを優先じゃないか。立派な国民だろう」
「い、意地悪……ですね」
話を元に戻されていた。嫌味付きで。
「意地悪も言いたくなるさ。初日から落ち込んでるのに辞めないって言うし。迎えに来た時に英雄を問い詰めなかった俺に感謝して欲しいくらいだよ」
「ごめんなさい……」
「もっと他に目を向けて欲しいんだけどな。例えば……俺、とかさ」
「え?」
「なんでもない。
君には悪いけど、英雄が節穴で良かったって心底思ってる。出来ればそのまま、気付くことなく過ぎればいいと……」
「ロウ……?」
「はは。訳わかんないよね。忘れていいよ。でもこれだけは覚えておいて。俺は君が大事で大切なんだ。本当だよ」
真摯な眼差しと柔らかな笑みに射抜かれた。
ロウが向ける態度や言葉は、いつもいつも心に染み渡る。
最初のコメントを投稿しよう!