情に溺れるひと時

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ロウの自分を顧みない励ましや慰めは、偽善に気付いた愚かなわたしを律してくれた。 次の日からは与えられた目的の為に。 ただ、それだけの為にレイの屋敷に通う。 ずっと過ごしていた場所だから、立場は変われどすぐに慣れた。 戸惑う侍女や侍従には申し訳ないけれど、わたしをリリーとして扱って貰うことと、口が裂けても元妻だと言うことは内密にとお願いをする。 セレーナ奥様の耳には万が一にも入ってはならない。レイも厳命していることは知っていたけれど…… この屋敷において、レイの権限が通用する気がしなかった。 『とうとう英雄は心を入れ替えたのですね』 『あの女狐はいつ出て行かれるのでしょう』 わたしが戻って来たことにより、そんな風に色めき立つ者が後をたたなかったのだ。 一度も立ち寄りもしなかった英雄。 バカな噂に流されてしまった英雄。 今更ながら後妻と一緒に屋敷に足を踏み入れた彼を、暖かく迎える者など一人もいなかったらしい。 この有様に途方に暮れていると「貴女の言葉なら忠実に聞くでしょうね」と執事が呟いた。 もう主人ではないのに…… だが、こんな状況を放っておくわけにもいかず、わたしが来た理由とやるべき仕事を伝えれば、益々憤りが激しくなってしまった。 「皆さん。リリー様を困らせるおつもりですか」 「まさか。そんなつもりは露ほどもありません」 「ですね。では、リリー様の真意に沿って、お力になるようにお願いしたいのですが」 執事の静かな説得により、どうにか丸く収まった。頼りになる。本当に……
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