情に溺れるひと時

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早急に解決しなければならない問題は、セレーナ奥様の食事事情である。 毎日のことだし、試行錯誤して出したものは大半が残されていた。このままでは身重のお身体に障り兼ねない。 それだけではなかった。 妊娠という身体に訪れる変化は、良くも悪くも心にも多大な影響を及ぼしているようで。 一日を寝台に伏せってお過ごしになり、酷い悪阻による体調不良のせいで気分にムラが出て癇癪が激しい。 『こんなはずじゃなかったのに』 『子供なんて作るんじゃなかったわ。不便なだけで好きなことも出来やしない』 『医師から堕胎薬を貰って来てよ』 とてもじゃないが、レイには聞かせられない言葉だった。 わたしは妊娠をしたことがないので偉そうな事は言えないけれど……愛した男の子供を身籠もれたなら、どんなに辛くても、やはり嬉しくて大切で、絶対に産みたい気持ちが勝つだろう。 セレーナ奥様の不安定な情緒は、食事がままならない事で余計に悪化しているように思えた。 「領地を見回りたい、だと?」 「はい。屋敷で報告の書類を目に通すだけでは実情を掴めません。自分で確かめたいのです」 「……またそうやって、俺の目を盗んで悪事を働こうと画策してるんだな」 「ち、違いますっ!」 「何が違う? 妻だった時も自らが赴き、領民から税以外の金を取り立てて己の懐を温めていただろうが」 「……信用にならないのなら、わたし一人じゃなくて誰かを監視に付けて下さい」 「俺が一緒に行く。妙な真似をしたら叩き斬るからそのつもりでいろ」
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