綻びの波紋

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「旦那様。こちらの果肉がたっぷり入った飲み物をお召しになり、どう思われました?」 二人のやり取りに割り込んで、レイの意識をわたしに向ける。視線が外れ、ホッとしたように小さくため息を吐いた家人を目の端で確認しながら。 息子が出て行ったのも人を雇えないのも、急激な税の引き上げが招いた結果なのだ。 働いても働いても良くならない暮らしが民を追い詰めている。若い働き手となる者がこの地を離れてしまうのは、他所に移り住んだ方がマトモに暮らせるからだろう。 年老いた者は他所で仕事にありつけるかどうかも分からない。同じ見えない未来なら、慣れ親しんだ土地にいた方がいいに決まってる。 そうやって、領地はどんどんと過疎化が進み、過疎化により街は廃れ、益々発展の担い手となる者が逃げ出す悪循環に陥ってしまう。 何としてでも止めなければ。 「普通に美味かったが?」 「良かった。この農場で取れた果物はセレーナ奥様の好きなタルトに使用されていたのですよ」 「へぇ、あの菓子屋は潰れてしまったが……果物はここにあったのか」 「奥様はあまり食事も喉を通らないご様子ですし、こちらの果物ならばお召しになって下さるかもしれませんね」 「よし。毎日届けて貰うとしよう」 「はあ……ですが、収穫らしい収穫が出来ないので、領主様に収めるべき量は……」 「それは心配に及びません。旦那様自らが荒れ放題の農地を手入れして、新鮮で美味しい果物を実らせてくれるでしょう。他でもない奥様の為に……」 二人とも口をあんぐり開けている。それに構わず今日、明日からの段取りを勝手に纏め上げ、後ほど詳しい取り決めは書類にすると言い残し、呆けたままのレイを連れて家を出た。 強引でもいい。 とりあえずの第一関門を突破せねば皆の生きる道はないのだから。
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