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了承せざるを得ない状況だったにも関わらず、レイは意外にも次の日から毎日農場へ通い出す。
その姿はあっという間に噂となり、黙々と働く領主の姿をひと目見ようと領民達が大挙して農場へ押し寄せる日々が続いた。
……愛する妻の為なら当然と言えば当然か。
満足に食事が出来なかったセレーナ奥様は、レイのおかげで何とか食欲を取り戻し元気になりつつあった。
「旦那様。ここらでひと息つかれてはいかがですか。お集まり頂いた領民達の分も食事を用意しましたので、是非、皆と共にしましょう」
返事は聞かない。言うだけ言って、こちらを眺めていた領民を呼び寄せる。
旦那様より皆様へと振る舞えば、レイを筆頭に皆が皆、一様に目を丸くしていた。
久しぶりに領民達の顔に笑みが浮かぶ。
「おい。……どうしてそんな嘘をついた」
「嘘ではないでしょう。確かにわたしの独断で作り持って来ましたが、貴方の屋敷にある材料で用意したものなので、旦那様からで間違いないと思いますが?」
休憩を終え二人になった瞬間、不機嫌ともいえるレイの低い声がした。何食わぬ顔で返事をすれば、たちまち眉間に皺が寄せられる。
「それで俺の好感度を上げてるつもりか」
「あら? 分かってらっしゃったのですね」
農場に集まった領民達の中には、レイの行いについて貶める発言をする者も少なからずいた。
『なんの気まぐれだ。どうせすぐ飽きる』
『今更頑張ってますって態度されてもな』
『贅沢三昧で好き放題。俺らから金を巻き上げる暴政を敷いておきながら、自分は農業ごっこかよ』
そしてそれは、レイの耳にも届いている。
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