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怒るか斬るかするならば、体を張ってでも止めようと思っていたけれど、レイはどちらもしなかった。
見向きすることもなく、ただ淡々と作業に打ち込み、時々、わたしが農場主である家人に教えを請う様を距離を置いて聞いているだけで。
敵意を隠しもせず吐き捨てる領民達の愚痴に
は、短気な彼からしたら珍しく反論することもない。
「お前は俺が憎くないのか」
「なぜ、そんな事を聞くのです?」
「俺はお前が領民達から税以外の金を取っていると思っていた。そう報告を受けていたからな。だからお前が居なくなった今、増税しても領民には影響がないだろうと、そう思ってたのに……」
報告、かぁ……誰から聞いたのか知らないけれど、大幅な税の引き上げの理由がそれだったとは。自分だけならまだしも、酷い噂のおかげで被害を被った領民達に申し訳ない気持ちになる。
「わたしはそんな事してません」
「ああ、分かってる。領民は俺を嫌うがお前にはそうじゃないもんな。同じ事をしてるのに、何で違うんだろうってずっと不思議だったけど、領民のお前に接する態度が答えだと、今はちゃんと理解してる。……勘違いしてすまなかった」
頭を下げて謝るレイに驚いた。
結婚していた時は存在自体をないものとされ、こんな風に話し合ったことは一度もない。
レイはわたしに夢を見させてくれたから。
貴方の「妻」という「特別」を与えてくれたから。それで十分幸せで。
愛されなくても尽くすことで自らの「愛」を捧げ、いつか届いてくれたらなどと甘い考えを持って邁進していた。
噂も噂だが……自分が取っていた態度も思考も独り善がりだったことに気付く。
……お互い様だ。
結婚している時に気付けてたら、二人の結末はもう少し違ったものになっていたかもしれない。
……本当に今更だけど。
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