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「リリー、今日はなんだか嬉しそうだね」
「ええ。旦那様が領民に税の軽減を宣言されたのです」
迎えの馬車にて、ロウに経緯を説明する。
いつもレイの屋敷であったことをそれとなく聞いてくるロウだが、この日はわたしの方が前のめりになりながら積極的に喋っていた。
というのも、自分の行いが間違っていたことを素直に認めたレイは、領民が願って止まなかったことを叶えてくれただけじゃなく、領地経営に関しても取り組んでいくことを約束してくれたのだ。
これには、わたしも執事も歓喜のあまり泣いてしまって、いま思い出したらちょっと恥ずかしい気がしないでもないけれど。
とにかく、良い方向に流れていることが嬉しくて仕方ないのだ。
「そうか……良かったね。リリーの頑張りの賜物だと思うよ」
「いえ、旦那様が気付いたおかげです」
「でもそれを気付かせたのはリリーじゃないか。君は英雄の望み通りのことをしたのだし、そろそろっていうか……もう手助けは必要ないと思うけど……」
「そうですね。奥様も体調が戻って来てますし、あの果物があればわたしが作らなくても召し上がって下さるでしょう。旦那様が前向きになった今、執事のサポートがあれば十分やっていけると思います」
いつまでもズルズルと元妻が出入りするのも憚れる。潮時なのだと、わたしもロウの意見に同意すれば、彼はあからさまにホッとしたように息を吐いた。
「じゃあ明日、俺が直接リリーを返してくれるよう英雄に言うよ」
「返せだなんて……わたしはいつもちゃんと帰って来てるじゃないですか」
「うん……でもいつも気が気じゃなかった。迎えに行っても出て来ないんじゃないかと……」
言いにくそうに心境を吐露したロウに悲しくなった。わたしの場所はロウとカレンさんが用意してくれてると思っていたのに……違うのだろうか?
「リリー、君は全然分かってないね。俺のどこをどう見たらそんな解釈になるの。……はあ、はっきり言わないと伝わんないのかなぁ……」
ロウの零した呟きは小さくて。
よく聞こえなかった。
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