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その日はいつもと何もかもが違っていて。
朝からロウと二人でレイの屋敷に訪れたのもそうだけど、扉を開けてくれた執事の顔色が芳しくない。
ロウがレイに取り次ぎをお願いしてもなかなか中に入れてくれず、仕方がないのでわたしだけでも先に話をしておこうかと中に入りかければ、それすらも阻まれてしまった。
訳を聞こうと口を開くと、何やら揉めているような声が聞こえてくる。勿論、扉を隔てた中で。
「実は……旦那様と奥様が言い争いの真っ最中でして……」
あらら。それは確かに他人を入れるのに躊躇する状況だ。
「では、貴方に言付けをお願いしたい。リリーは昨日付けでこちらに来るのを辞したいと、英雄に言っておいてくれないか」
「そ、それは困ります! 旦那様に指示を仰がねばならない案件だと思いますので、暫しお待ち下さいませ」
慌てて部屋に引っ込む執事を尻目に、ロウが別に待つ必要なんてない。帰るぞ、とわたしの腕を取る。……いや、それじゃあ執事の立場が……と逆にロウを引き止めれば、向こうの事情なんて考えなくていいのに、と何だか険しい顔をする。
「すまないっ、ロードフェルド公爵。とにかく中で話を伺うから入ってくれ」
「……そちらは今、大切な奥様とお取り込み中なのでしょう? どうぞ、気になさらずに。用件は執事に伝えたので、もう話すことはありません。さ、リリー、ウチに帰ろう」
「ま、待て!」
腰に回ったロウの腕がわたしを馬車に促せば、手首を掴んだレイが引き戻しにかかる。
……どちらも譲る気がないようで、力が込められた二人の腕の強さが地味に痛い。
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