綻びの波紋

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折れたのはロウの方だった。 公爵と言えども、王に次ぐ権力を保持したレイに逆らえるはずがない。 渋々ながら応じたロウと、痛みから解放されたわたしが通された部屋には、なぜかレイの隣にセレーナ奥様までもが揃って座ったのだ。 ……諍いがあった二人なのに大丈夫なのだろうか。 「初めまして、ロードフェルド公爵様。私は英雄レイの妻であるセレーナと申します」 「………どうも」 「私のことはどうぞセレーナと呼び捨てで結構ですわ。だから私も貴方をローディと、愛称で呼ばせて下さいませね」 「セレーナ嬢。自分の夫の前で、他の男にそのような事を軽々しくおっしゃるのはどうかと思います。はしたなくも誘ったと、勘違いされますよ」 ピシャリと撥ね付けたロウの言うことはもっともだ。呼び捨てとか愛称とか言い出した時はギョッとして、思わずレイの様子を確認してしまった。……平然としていたので怒ってはないようだけど。 喧嘩の名残りなのか、こちらにとばっちりが来たようで変な雰囲気になっている。 「ふふふ。ローディは堅物なのね。レイはこんな事で怒るような男じゃないわ。私の為ならドレスも宝石も別荘も、強請れば何でも買ってくれる優しい男だから」 「セレーナ。そんな話をするなら出て行け」 「何よ。酷い言い方ね。最近のレイは少しおかしいんじゃなくって? あれもダメ、これもダメばかりで、ちっとも願いを叶えてくれない。これじゃあ何の為に妻の座を手にしたのか分からないわ」 ……酷いのは奥様の方では、と言いかけて、その言葉をごくんと飲み込んだ。代わりに、 「旦那様は身重の奥様を気遣ってらっしゃるのですよ。羨ましいですわ。とても愛されているご様子で……」 と、勝手ながら仲裁役を務める声を出す。 ロウが思い切りすごい形相でこちらを見たので、余計な事だったかもしれないと思うも……言ってしまったものは取り消せない。
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