緩やかに、穏やかに、浸透する熱

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「リリー、聞いていいかい? 最近ロウと二人で出かけているようだけど……実際問題、あんた達は男女としてどこまでいってるの?」 カレンさんの言わんとすることは分かっている。彼女は彼女なりにロウの結婚相手を探しているつもりなのだ。相手をわたしに選んだ時点で、大間違いもいいとこだけど。 カレンさんは知らない。 わたしとロウの出会いの状況を。 そして、脅されたとはいえ、オットー公爵の情婦になっていた事実を。 この国は初婚や処女性を重視しているわけではないけれど、身分の高い者に嫁ぐ際には暗黙の了解みたいなものがある。 レイは異界の人間だったからイレギュラーとして認められただけで、本来なら侍女あがりとの婚姻なんてもっての外だ。公爵家に嫁す女性に離婚歴や婚前交渉、身分もないとなれば世間体として大変よろしくない。 貴族としての醜聞、噂の的となり、最悪の場合つまはじきの憂き目に合ってしまう。 市井育ちのカレンさんが内情を知らないのも無理はなく、わたしだって侍女務めをしていなければ、貴族のルールなど掠りも知ることはなかった。 答えずに曖昧な笑みで流していたら、ロウが仕事を終えたのを二人で出迎えた瞬間、カレンさんの口撃のような責めが彼を襲う。 苦笑いでそのやり取りを見るしかなかったけれど、無理やり精力料理のおかわりをさせようとしてたのは、さすがに止めた。 カレンさんは、男とは女とはという年長者ならではの講釈をロウにしつこく聞かせ、巷で人気の恋愛小説ならぬ官能小説を帰り際に押し付ける。それで男女の何たるかを勉強しろと言うつもりらしいが…… 静かになった部屋では、疲労漂うロウの表情と、生々しい睦み合いを挿絵にした本がテーブルに置かれたまま、わたしは取り残されていた。 ……カレンさんが変な事言うから気まずい。 「あ、お茶の用意をしてきますね……」
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