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逃げるわけじゃないけど居た堪れない。
いつもより長い時間をかけて部屋に戻り、カップをロウの前に置こうとして目を剥いた。
……本、まだあったのか。
動揺を胸の奥に仕舞い込み、平静を装ってササっと茶器を乗せていたワゴンの下段へと追いやる。
お茶を固辞すれば良かったと思うも、後の祭りだ。二人分を用意しておきながら、どうぞごゆっくりなんて言えやしない。
「カレンには参いるよ。まぁ……公爵位を継ぐ前からの付き合いだから、親心みたいな気持ちで言ってくれてるのは分かるけどね」
「……ロウには、結婚願望がないの?」
向かいに腰掛けて、漂う妙な雰囲気を破ったのはロウだった。
継ぐ前からの知り合いなら7年も経つ。
カレンさんが心配になるのも頷ける話だ。
「なくはないよ。いつかはしたいって思ってる」
「じゃあ、お相手を探された方が……」
仕事も大事。領地経営も勿論大事だけども。
そろそろ恋愛面にも本腰を入れて欲しいところだ。
「相手ならもういるよ。と言っても、俺の一方通行みたいだけどね」
「そうなの? ロウの良さに気付かないなんて、相手の方は見る目がないんですね」
「……俺の良さって何なわけ? 自分じゃ分からないからリリーの意見を聞かせてよ」
そんなの、あり過ぎて困るよ。
逆に言えば、ロウに靡かない相手の女性がおかしいと思うほどに。
「アプローチしてみたらどうですか?」
「それとなくしてるつもりなんだけどね」
「カレンさんじゃないですけど……ロウは優しいから伝わってない可能性があると思う」
相手の立場や想いを考え過ぎて押し切れないと言うか……うん。たぶん、そっちだ。
「もっと強引に行くべきだってこと?」
「そうですね。やり過ぎぐらいが丁度いいんじゃないかなぁ……」
あくまでロウの性格を鑑みて、だけど。
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