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交錯する想いの果てに掴む愛
夜会で起きた大騒動。
噂でしか知らなかった王直属の影の部隊、その隊長たるロウ直々の捕縛とあって、国の英雄毒殺未遂事件は一夜のうちに広く国民に知れ渡ることとなった。
裁判を待つセレーナを収監している建物には、極刑を望む民衆の嘆願書が山のように届き、英雄の屋敷にはレイの回復を祈る人の群れが後を絶たない。
「今日も行くのかい?」
「はい。……夕方には戻ります」
微妙な表情のカレンさんの言いたいことは、聞かなくても分かっている。毎日のようにレイの世話をしに行くのを、どう止めようかと思っているのだ。
セレーナの起こした暴挙に、わたしは少なからず責任を感じている。
ロウに言わせれば、負う必要のないものらしいけど……もしも、を考ずにはいられない。
結婚当時に女遊びをやめてと諌めていたら。
侍女として出向かずセレーナとロウの接点を作らなければ。
ワインを飲むことを阻止出来ていたら。
今回のことは、過去のどこかの時点で回避する術があったのだ。わたしの心持ち一つで。
リリーのせいじゃないと、ロウは語気を強めて言った。分かっている。振り返っても起きてしまったことは無くならない。けれど……
人の命を失いかけた衝撃は、自分の中に芽生えた罪悪感や後悔を容易に振り解くことは出来なかった。
それに……
わたしはレイの話を聞いてしまっている。
元の世界の妻に裏切られ、こちらの世界の妻には裏切りどころか命まで奪われかけたのだ。身体もだが、レイが心に負った傷の深さは計り知れないものがあるだろう。
心の傷は治せない。
だったらせめて身体だけでも。回復するまでは世話をしてあげたかった。
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