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バカな女の献身
青天の霹靂。
長く続いた戦乱に終止符を打ち、平和の礎を築いた異界の男。
名高い神官が呼び寄せたその男は、国中の最後の希望だった。期待に応える以上の働きを見せ、国王より賜わった莫大な資産と領地と英雄の称号を手にし、放蕩三昧に明け暮れていた。
それを咎める者はいない。
男は何をしても許される。国の命も人の命も救ってみせたのだから、この純然たる事実に勝るものはなかった。
自由で気ままで、それでいて情事の相手には困らない美貌と権力と金という武器を持ち、数多の求婚を断わり独身生活を謳歌する男。
その男がついに結婚を決めたことは、大ニュースとなって世界を駆け巡る。
大々的に、華々しく結婚式を行い、一般市民から貴族まで、老若男女問わず皆が盛大に心からの祝福の言葉を贈った。
まるで夢のようだ。
好きな男に請われ、幸せの絶頂を極めていた女は素直に喜ぶ。
豪華な花嫁衣装も、新居となる広大な屋敷も、夫となるべき相手への恋情も、全部が全部、女の心を酔わす。
だから気付かなかった。
おかしな場所でされたロマンチックのかけらもないプロポーズも、「くれてやる」という意味も、ただの一度も微笑みを投げかけられたことがないことも。
大き過ぎる寝台で一人きりの初夜を迎える。
英雄は皆のものだ。結婚したからと言って妻だけが独占できるとは思っていない。
けれど、この日だけは、この特別な日だけはわたしだけのものにしたかったなぁ。
外せない大事な付き合いがあると言った貴方と屋敷の前で別れ、やり切れない気持ちに苛まれた。
仕方ない。
今後はずっと一緒に居られるから。
妻という紛れもない事実は揺るぎようがないから。
だから大丈夫。平気だ。
溢れそうな涙は流すべきじゃないと、多くを望み過ぎるのは良くないと、自分で自分の寂しい気持ちを誤魔化し眠りについた。
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