熱き火花

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熱き火花

「その女を渡して貰おう」 外れて欲しいと願っていたけれど、カレンさんの予言は見事に的中している。 昨日、追い返されたのがよっぽど腹に据え兼ねたのか、今日は来た瞬間から不機嫌さを前面に押し出した表情をしていた。 ロウはロウで、それに少しも動じることもなく、対面に座したソファでいつも通りの雰囲気を崩さない。 と言っても、ロウは普段から強面なので、見ようによったら二人とも怒っているのだが。 「申し訳ない。この屋敷には “ その女 ” という名の者はおりません」 ヒュッ……と、喉奥で変な音がした。 レイの要求はあきらかだ。その女とはつまり、ロウの横で身を縮めて座るわたしのことであり、レイの視線もそれを告げている。 慇懃無礼にもシレッと返したロウの豪胆さに驚いて、心臓がけたたましく跳ね出した。 「俺に対してそんな態度を取った奴はお前が初めてだ」 「それは貴重な経験をされましたね。英雄の初めての相手になれて光栄です」 「貴様っ!」 「おおお待ち下さいませ。激昂されてはお話出来ません。で、ですので、どうかお座りを」 レイの怒りの沸点は低い。 それでなくても最初から機嫌が悪いのだ。椅子をひっくり返して立ち上がったレイに慌てて声をかけ、部屋の隅で待機していた警備の者に目配せをする。 「……マリー、俺はお前に用があるんだ。 こいつと話に来たわけじゃない」 「失礼。生憎とウチにはマリーもこいつという名の者もおりませんが……どちらかとお間違えになっているのでしょうね。ああ、君。英雄がお帰りだよ。見送りを頼む」 グワッと目を剥いた。 レイを落ち着けた側からロウがわたしとレイの間に手を差し入れ、互いの視界を遮ったところで更なる爆弾を投下した。 そしてその流れのまま椅子を起こしに来た者に言付けて、今度はロウが席を立ったのだ。
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