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(凛side1) 土曜日 誕生日ということもあって… 開店時からお客様が入っている いつもはドレスなんか着ないけど 主役なんだからと 用意されていたものを着る… ……スリット深すぎ…… 仕方ない、今日だけ我慢しよう… 各テーブルをまわり 花束やプレゼントを貰う シャンパンやワインを入れてくれるので それを頂く そして歌ってほしいと言われる それの繰り返しだ… 途中、山岸さんの姿を見つけ 目があったので手を振ってみたりした お客様から誰?って感じで 振り向かれて 山岸さん驚いた顔してた。 そこまでは楽しい時間だった… 新規のお客様が来たというので テーブルについて欲しいと言われ 指示どおり向かった… ピアノに近いテーブルには 3人のお客様がいたが よく顔を確認せずに 挨拶をしてしまった。 いつもは確認するのに… 「いらっしゃいませ。凛です。 今日はご来店ありがとうございます。」 ニッコリと笑いおじぎをした。 その後お客様を確認して… その中の1人を見た時 私の心は悲鳴をあげた… 景(けい)…どうしてここに…… 3人の中で1番の上司らしき人が 仕事で3日間こちらに滞在する という事を教えてくれた… この辺で有名なお店と聞き 来店したとのことだった… そして私は… 1番避けたかった景の隣に 座ることになってしまった… 目の前に座っている二人は 私の誕生日と言う事を知り 新規のお客様にも関わらず シャンパンを入れてくれた 隣に座っている景は 今の所何も喋らない… もう1人スタッフがテーブルについて 目の前の2人と話が盛り上がってきた時 景はようやく口を開いた… 「随分遠くまで引っ越したんだね。 見つからないはずだ… あれから探したんだよ。」 すぐに答えようとしたけど 喉の粘膜が張り付いてしまったように 声が出せなかった… シャンパンをふた口程飲み 呼吸を整えた… 「…別れたし… もう終わってるんだから… 探さなくても…」 「俺は別れたくなかったんだけどね」 私の声に被せるように言った。 普段は優しいが時々高圧的になる… 話の内容が聞こえたのか 上司達とスタッフが食いついた… ……面倒なことになった…… 「なんだ、お前知り合いだったのか?」 「まぁ…そうですね。」 景は私のほうを見て言った。 「凛さん、別れた〜とか聞こえたんだけど、もしかして元彼さん?」 私は何も答えたくなかった 「3年位前に別れたんですよ。 俺は別れたくなかったんですけどね。 姿くらましちゃって… でも、もう諦めましたけどね」 笑いながら私の方を見た。 え〜っ、こんなイケメン 凛さん振っちゃったんですか〜? もったいな〜い スタッフは…好き放題言ってる。 思うように仕事が出来ない私は アルコールの進みが早くなっていった… 当たり障りのない話をしてるうちに 歌ってほしいと言われ 続けて2曲歌い、席に戻った。 「歌上手いね〜。 元々どこかで歌ってたの」 上司の1人が拍手しながら言った。 「いえ…元々歌は好きでしたが、 人前で歌うようになったのは ここに来てからです」 「不思議な歌声だね。 歌姫って呼ばれてるんだって?」 もう1人がタバコを吸いながら言った。 「いつの間にかそう呼ばれてます。 未だに馴れませんけど」 「いや〜、君に…凛ちゃんにピッタリだよ」 ハハハと上司達は 話が盛り上がっている。 景は私のグラスにシャンパンを注いで 私にだけ聞こえるように言った。 「声、戻ってないんだ」 「……思い出しなくない…」 「…店終わったら付き合えよ。 話がしたい。何時に終わる? 終わりまでいるから」 「…私は話すことない」 「いいな。付き合え」 「……2時に終わるから…」 それから景は誕生日だからと言って シャンパンを2本入れた。 私はボーイにアフターに行く事を伝え 代行は自分で連絡するから 呼ばなくていいとお願いした。 それから立て続けにリクエストが入り 私はシャンパングラスを持ったまま ピアノの横に立ち歌い続けた。 飲みながら歌うなんてした事ない …酔ってしまいたかった ピアノに近いということもあり グラスが空になると、 上司に促された景が シャンパンを注ぎに来た あれは誰?と 店内の視線が集まる… タイミング悪く上司が口走った 「ここで会ったのも何かの縁だし より戻しちゃえば?」 近くのテーブル客に 聞こえてしまっていた… へぇ、あれ凛さんの… より戻すって…えっ?前の男って事? 少しざわついたが 全体には広がらなかったようだ… なんだか…居心地悪い… それが更にアルコールを進める原因になった……
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