想いを秘めて

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広い店内には ピアノが置いてある ピアノの生演奏を聴きながら 飲んだり話したり… 客のリクエストで演奏は色々変わる そのピアノに合わせて 凛さんは時々歌っている 「お店で歌うのって凛さんだけ?」 今日はあまり飲んでいないと 言っていたけど、 最近はとても疲れてるように見える… 「そうだね… いつの間にかそうなってたの。 最初は接客だけだったのに… 今じゃ、半々。 …歌うほうが多いの…かな…」 帰りの車内… 凛さんは窓の外を ぼんやりと見ながら言った。 「なんでそうなったの? きっかけとか」 「お客さんにね… 遊び半分でピアノの横連れて行かれて… 何でもいいから歌ってみろって。 結構取り扱いに気を使う 常連客だったから 誰も助けてくれなくて…」 「見て見ぬフリ?」 「そ、ひどいよね… でも他のスタッフ達が 目で、頑張れ〜って言ってたのは わかった。だから頑張ってみたの…」 「あのお店のスタッフ同士って 仲いいよね。珍しいと思うよ」 「そうだよね。私もそう思う。 …で、何とか歌って その場を乗り切ったの。 …でも何故だか 次の日からリクエストが増えて…」 「それは…お客さんのあいだで 噂になっちゃったんだね?」 「そうみたい… 目立つのはイヤなのに… いつの間にか…ね。それで今に至る感じ」 ああいう所の噂話は いい事も悪い事も一晩ですぐ拡がる 怖いくらいに…だ。 「そういえば、凛さん。 来週誕生日だったよね? 金土はお店で誕生会?」 「うん… あまり派手にしてもらいたくないから 土曜日だけにしてもらったんだ…」 「土曜日、大変そうだね」 「……そうだね…」 凛さんは深く溜め息をついた… そしてまた窓の外をぼんやり見つめた… 俺は誕生日プレゼントの事を 考えていた…
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