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じゃあ……と、口を開く彼女。
「次の進級式、3月ですよね。その時に、名前で呼ばせてもらいます」
あんまりさらっと口にされたものだから、一瞬何を言っているのか分からなかった。
「え……? 3月って、今まだ…………」
2月頭、と言いかけた俺の口を、彼女の笑顔が塞ぐ。
「頑張りますよ。絶対先輩を名前で呼びます。もう折り返し地点なんですから、きっと大丈夫ですよ!」
底抜けに明るい彼女の声は、しかし感情が全くこもっていないように思えた。
同時に、1ヶ月で治るという仮説を無視した前提に、彼女がもう希望を持っていないことを知ってしまった。
この病気は、治らない。
もう、耐えられなくて狂死する日を待つしかない。
「ああ……待ってるよ。だから、頑張れよ」
俺は、ちゃんと笑えているだろうか。
きっと、ひどく引き攣った、歪な笑顔をしているのだろう。
彼女はそれを見て、また自分が傷つけたと思いつめてしまうのだろう。
「……はい」
不自然に空いた間の後に返事をした彼女の顔を、俺は見ることができなかった。
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