7人が本棚に入れています
本棚に追加
とある病気を発症して、彼女は人間としての名前を、仲間を、生活を――人生を失った。
Code7038、とだけ表記された彼女の本名を、もう呼ぶことは許されない。
『彼女』は数日前まで、俺と同い年で1つ下の後輩だった。
研究所付属大学3年生が彼女の肩書で、俺の肩書は研究所付属大学の4年生。
2人ともまだ15歳で、お互い飛び級を繰り返した今は、唯一の学年が近い同い年だ。
更に彼女は俺と同じ、プロジェクト――正式名称が
『ファイヤーシンドローム発症者対策委員会対策課による、発症後の医療に関する新プロジェクト、プロジェクト名クーラー』
なんていう驚異の長ったらしさを誇るため、単にプロジェクト、と呼ばれている――の幹部メンバーだった。
ちなみに、より短いはずのクーラーは、ネーミングのセンスの無さのせいで定着しなかった。
なんと言ったって、プロジェクトリーダーが
『うーん、ファイヤーシンドロームなんだし、クーラーで良くね?』
なんて思いつきで言った案が、他に意見もなかったので通ってしまったのだ。
俺と彼女はその時、どうしても外せない講義があったのでそちらに行かざるを得ず、帰ってきたときはもうクーラーで書類まで提出されてしまっていた。
閑話休題
当初、プロジェクトは順調に進んでいるように思えた。
終末期にのみ許可されるモルヒネなどの強力な薬物ではなく、市販の痛み止めの調合を工夫することで、ファイヤーシンドロームの所以たる焼けるような痛みの大部分を軽減することに、実験用ラットの段階では成功した。
まだ人間が服用できるほどの安全性は証明されていないが、目標に一歩近づいたお祝いにと、メンバー全員で打ち上げのパーティーを開いた。
みんな大いに騒ぎ、はしゃぎ、研究の進展を祝った。
その帰りだった。
最初のコメントを投稿しよう!