発症、苦痛、その先の。

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とある病気を発症して、彼女は人間としての名前を、仲間を、生活を――人生を失った。 Code7038、とだけ表記された彼女の本名を、もう呼ぶことは許されない。 『彼女』は数日前まで、俺と同い年で1つ下の後輩だった。 研究所付属大学3年生が彼女の肩書で、俺の肩書は研究所付属大学の4年生。 2人ともまだ15歳で、お互い飛び級を繰り返した今は、唯一の学年が近い同い年だ。 更に彼女は俺と同じ、プロジェクト――正式名称が 『ファイヤーシンドローム発症者対策委員会対策課による、発症後の医療に関する新プロジェクト、プロジェクト名クーラー』 なんていう驚異の長ったらしさを誇るため、単にプロジェクト、と呼ばれている――の幹部メンバーだった。 ちなみに、より短いはずのクーラーは、ネーミングのセンスの無さのせいで定着しなかった。 なんと言ったって、プロジェクトリーダーが 『うーん、ファイヤーシンドロームなんだし、クーラーで良くね?』 なんて思いつきで言った案が、他に意見もなかったので通ってしまったのだ。 俺と彼女はその時、どうしても外せない講義があったのでそちらに行かざるを得ず、帰ってきたときはもうクーラーで書類まで提出されてしまっていた。 閑話休題(それはともかく) 当初、プロジェクトは順調に進んでいるように思えた。 終末期にのみ許可されるモルヒネなどの強力な薬物ではなく、市販の痛み止めの調合を工夫することで、ファイヤーシンドロームの所以たる焼けるような痛みの大部分を軽減することに、実験用ラットの段階では成功した。 まだ人間が服用できるほどの安全性は証明されていないが、目標に一歩近づいたお祝いにと、メンバー全員で打ち上げのパーティーを開いた。 みんな大いに騒ぎ、はしゃぎ、研究の進展を祝った。 その帰りだった。
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