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「先輩」
にこりと、どうしようもないほど清々しく、彼女は笑んだ。
「殺してください」
写真に撮ればプロポーズを受けた瞬間のようにすら見える彼女の笑顔を、唯一、その声が裏切る。
彼女は今も、耐え難いほどの痛みと戦っているはずだ。
その中で正気を保っているだけでも奇跡に近いのに、笑顔すら浮かべられる彼女は、どれだけの無理をしているのだろう。
「お願いします」
わずかに、語尾が震える。
もう、限界なのだ。
発症してから1ヶ月。毎日、眠っている間すら感じる激痛に、治るのなら我慢する、と言える気力が残っていないことを誰も責められない。
しかし彼女の場合は、それ以上にもう耐えられない理由があった。
「1ヶ月経って、もう3日目じゃないですか。責めるつもりはありませんし、責められる立場じゃないのもわかってます。けど……もう限界です。殺してください、先輩。私が書類を申請すれば罪にはならない。私、研究所で殺されるのは嫌なんです。これ以上、モルモットとして扱われたくない」
笑顔が歪む。
それも当然だろう。
通常1日から3日で狂死するか安楽死を求めるこの病を、1ヶ月間に渡って耐え続けてきた人間、しかもそれが15歳の少女だというのだから、当然研究所は沸き立つ。
毎日、苦痛指数の計測、カウンセリングとは名ばかりの尋問、上辺ばかりの謝罪、感謝、激励。
その行為が彼女の苦痛の根源にあることを、彼らは理解しようとしない。
「あと1週間、いや、4日でいい。待てないか?」
ひどいことを言っているのは分かっている。
1日1日が地獄のこの病気の中を、4日間。
今発症したって、俺はもたない自信がある。
「4日で治らなかったら、先輩がトドメを刺してください。それを約束してくれるなら、いいですよ」
それでも彼女は笑ってくれた。
4日間。
つまり、1ヶ月経ってから1週間。
誤差として許容できるのは、そこが限界だ。
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