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第2話 姉
高校生になって最初の夏休みに入っても、私は特にすることもなく、一日一個のアイスだけを楽しみに――それ以上食べると母に怒られるので――無為に日々が過ぎていきます。
夏休みに入って一週間ぐらい経ったころ、姉が帰省してきました。
「麻由子! 元気だった!?」
姉はリビングに飛び込むように元気に帰って来ました。
「元気だよ。いつもラインしてるじゃん」
「もー。ほんとつれない子なんだから」
姉は一言ぼやくと自分の部屋に荷物を置きに行くと、すぐリビングに帰ってきて、母と私にあれやこれや近況を話し出しました。
姉は今25歳で、専門学校を出たあと、美容師として働いています。いろいろ大変そうですが美容師は適職のようで楽しそうです。
母が夕食の買い物に出かけたので、私は姉とリビングに二人になりました。
だらしなくソファに座り、興味もないワイドショーが流れるテレビをを見ている私に、姉が話しかけて来ました。
「麻由子、彼氏できたの?」
姉から「彼氏」という言葉が出た瞬間にため息がでてしまいました。
「そんな食い気味に呆れないでよ」
「ラインでも散々言ってるじゃん。彼氏なんてできないってば」
「もー。せっかく麻由子かわいいのに。なんでそんなに卑屈なのよお。私は麻由子が高校生になったら恋バナするのを楽しみにしてたのにい」
「我が子が成人したら酒を飲みたがるホームドラマの父親じゃないんだから……」
姉は、そんな私の返事を笑って聞いていました。姉とは9歳離れているからか、私が多少生意気言っても喧嘩もせず、姉がひらすら私を可愛がっているという感じです。
姉は、女子の手本と言わんばかりの生き様の人です。小中学生のときは少女漫画とジャニーズに夢中になり、高校生になればメイクを始めて彼氏ができ、今は結婚前提に彼氏と同棲中です。姉は私のことをかわいいかわいい言っていますが、それは身内だからそう感じるのであって、どう考えても姉の方が美人です。美容師なのでメイクも髪型も抜かりなく、その上明るくて、私も尊敬しています。
妹の私は、姉と比べるとパッとしない子でした。見た目もそうですが、人と話すのもそう上手くなく、なにをやってもよくてそこそこ……姉のことは尊敬していましたが、私は姉のようにはなれないな、と小学校高学年ぐらいには悟ってしまったのです。
「ねえ、麻由子、今度プール連れてってあげるよ」
「えー。水着なんて恥ずかしいからいいよ」
「嫌なの? 子供のときは喜んで行ってたのに。じゃあせめて今度の夏祭り行こうよ。花火見ようよ。せっかくの夏休みなんだから夏らしいことしないと」
「うーん、まあ、花火なら……」
花火なら、見に行くのもいいかなと思い、了承しました。とはいえ、地元の他愛ない祭りでしたし、花火もさほど豪華でもない、何でもない祭りなので、私はしぶしぶ行くことにしましたが、姉は嬉しそうでした。
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