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好きな人の隣にいた女の子は明るい髪色に、私が着るのを遠慮した赤い着物を着ていました。いわゆる「強い女の子」です。
一気にたこ焼きの味がわからなくなり、祭りの喧騒が聞こえなくなりました。今日まで、姉とお祭りに備える日々がとても楽しかったことに今ごろ気づいて、苦しくなりました。こんなことならもっと楽しく過ごせばよかった、そう思ってももう遅いのです。
「麻由子、花火始まるよ」
姉が、穴場を見つけてくれて、人に埋もれることなく花火を見始めましたが、何も感じず、ぼんやりしていました。
「ねえ、麻由子、さっき同い年ぐらいのカップル見てたよね? 同じクラスの子?」
「うん」
「麻由子、どうしたの」
私は泣いていました。もう花火は涙で滲んで見えませんでした。
「あの男の子のこと、好きだったの」
「あら……」
姉もさすがに驚いたようで、黙ってしまいました。どん、という花火が上がる音だけがしばらく続きました。
「まあ、麻由子、花火見て元気でも出しなさいよ。お姉ちゃんもね、片思いで終わったことなんて何回もあるんだから」
「お姉ちゃんも?」
「うん、告白して振られるなんてしょっちゅう」
姉のこの言葉に、私ははっとしました。
「……いや、違う、私は振られてもいない」
私は立ち上がって屋台に戻りました。
「どうしたの麻由子」
私は屋台で、自分のおこづかいを使ってくじと射的と金魚すくいをやりました。どれもこれも、お金を払ってやったところで何も得られやしないだろうと、手を出したくなかったけど、あの二人が楽しそうにやっていたものでした。
案の定、くじは外れたし、射的はかすりもしなくて、金魚は一匹もすくえませんでした。
「お姉ちゃん、ありがとう。今日楽しかった」
帰りの車の中で、私は姉に言いました。花火はまだ終わっていなくて、窓から花火が見えました。
「え? 失恋したのに? 金魚すくえなかったのに? 楽しかったの?」
姉は運転しながらきょとんとした声で返しました。
「うん、どれも、やってみたら楽しかった。何も手に入らなかったけど、もしかしたら手に入るかもしれないって、わくわくしたの。だからいいの」
私はもう少し、いろいろなことにあがくべきだな、と花火を見ながら思いました。私の心は、祭りに来る前よりも晴れやかでした。
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