第1話 ありがち

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第1話 ありがち

 私は少女漫画とかは好きではないんですけど、姉がそういうの好きでして、家にあるもんですから時折読んでいたんですね。少女漫画をよく読むのってだいたい小学生のころじゃないですか。少女漫画の世界って、だいたいスポーツができる男の子がモテますよね。漫画に登場する女の子たちが、揃いも揃って学園の王子様的スポーツマンにキャーキャー言っている描写をよく見ました。人の好みなんてそれぞれだろうに、馬鹿らしいなと小学生のころは生意気にもそう思っていました。  だけど、いざ高校生になると、私はサッカー部のキャプテンというベタなポジションの人を好きになってしまったのです。本当に、漫画みたいに、サッカー部で一生懸命に活動している姿を見たのをきっかけに好きになってしまったのです。私も、漫画に描かれるようなありがちな女なんだと痛感して、少し情けなくなりました。  その人は、漫画ほど女の子にキャーキャーは言われていませんでした。だけど快活で、クラスの人気者ではありました。彼が教室にいると、いろんな人が彼を取り囲むので、私のような人に話しかけるのが苦手な人間は、彼と話す機会は、なかなか回って来ないのです。  私は男子たちが羨ましくなりました。同性だと彼に気安く話しかけることができるからです。だけど彼と同性だと恋愛するのはそれはそれで難しいでしょうし、やっぱり自分は女でよかったのかもしれません。しかし、ろくに話しかけられもしないのに、どうやって彼と付き合うだのなんだのに持っていけばいいんでしょう。高校生ともなると、校内にカップルもいるわけですが、ああなるまでの過程が私には見当がつきません。こんな私にはまだまだ恋愛は遠いのでしょう。もしかしたら一生何もないのかもしれません。  皆さんがご想像の通り、私はたいした女ではありません。成績も悪くもないけどよくもなし、運動は苦手で、帰宅部。とくに打ち込むこともない、どうしようもない若者です。なにより見た目も普通も普通で、美女とはとても言えませんでした。姉は、私は化粧の一つでもすればかわいくなると言ってくれましたが、私は校則違反のリスクを犯してまで化粧をするエネルギーがない人間でした。先生に何度となく注意されながらも、髪を染め、化粧をして、自分を通そうとする女の子たちほど私は強くありませんでした。そして、恋愛とは、そんな「自分を通す強い女の子たち」のものであると、私はひっそり思っていました。だって、校内のカップルとして男子の隣にいるのは、そういう強い女の子たちでしたから。
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