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先頭集団から少し遅れ、他の石使いより高いところを飛んでいたリックとアロモの周りは静かだった。下では石使いだけでなく王立軍の兵士たちを巻き込んだ衝突が繰り返され、地上で戦っている者は、空にまで目が向かないようだった。
「最後に出たのが功を奏したな。このまま邪魔されずに塔まで行けるか」
「待って、あれ、ベラさんの大鷲が!」
近付いてきた塔から大きな音がするのに目を向けると、崩れた外壁から飛び出した大鷲が旋回しながら落ちていくのが見えた。それに気付いた城付きの石使いたちが、追い打ちをかけるように攻撃を仕掛けようとしている。
「ベラ!」
「待って!」
咄嗟に石の力を使おうとしたアロモをリックが制した。素早く矢を取り出すと、狙いを定めて弓を引く。
「ごめんね」
リックが放った矢は、吸い込まれるようにひとりの石使いが乗った馬の尻に刺さった。馬は大きな鳴き声をあげ、みるみる翼を失ってゆっくりと落ちてゆく。リックは次々矢を引いては、石使いたちの乗る動物を射ち落とした。
「ほう! よもや、そなたにこのような特技があろうとはな」
「弓の腕だけは早く俺を越えろって、父さんが言ってたんだよ。それより、落ちた人たち……」
「気にするな。たとえ下っ端でも石使いならそう簡単に死なん。ベラも落ちたが下にはヌーヴォがいたはずだ。心配ない、このまま塔の天辺目指して飛べ」
すると後ろから一陣の風が吹き、マザレを乗せた美しい翼を持った白虎が駆けてきた。
「リック、今の弓は大変見事でした。でも無理をしないで。あなたに何かあったら、あなたのお父さんとお母さんに申し訳が立たないわ」
「大丈夫だよ。それよりおばあちゃんこそ気を付けて」
「ふふ、私はこれでも二十年以上、誰にも学長の座を譲らなかったのですよ。先に行きます。アロモ、必ずリックのことを守るのよ」
マザレがリックに優しく微笑んで紫の石を高く掲げると、白虎の悠々とした足取りは一転し、凄まじい速さで駆けて行く。リックもそれに追いつかんと強く手綱を握れば、シズクが了解したようにその速度を上げた。
やがて塔の頂上に見えたのは、赤い蛇に身を包んだサメロとマルグラントの姿だった。
◆
塔の頂上に躍り出たサメロは、塔の周りや地上で交わされる石使い同士、あるいは石使いと兵士たちの衝突を表情なく眺めた。
「この国を変えたいと思っていた。しかし、それは幻想だった。所詮、私の力の及ぶことではなかったんだ。もうオートもいない。ならばせめて、母上の悲願だけでも果たしたい」
「母上の悲願って……」
「この国を内側から壊すことだ。母上は国への復讐のために最も忌むべき男の子供を産み、その子に願いを託した。それが私だ。この国の人間に一族を皆殺しにされた、君ならわかるだろう? 皆己だけが正しく、幸福に生きる権利があるのだと信じ込んでいる。己が良ければ、他者がどうなろうと知ったことではない」
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