第18話 リックとアロモ

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「呪いを受けるということは、使おうとした石の力が自分に跳ね返ったということだ。余程の禁忌でも犯さん限りそんなことは起こらんし、ヴィントやサージェの様子から察するに、禁忌のすべては禁書に封印されているんじゃないのか」 「禁書もなしに、禁忌を犯したの」 「何の禁忌を」 「自分たちの幼い子供を生き返らせようとした」  アロモはマルグラントから視線を外した。彼女が今にも泣きそうな顔をしていたからだ。 「でも、全部が不十分だった。サージェ様は決して禁書をブローテクに渡さなかったし、子供の体ももう灰になっていた。それでも、彼らは諦めきれなかった。自分たちの智と力を以てすれば、必ず子供が蘇ると信じていた。なまじ、彼らに知識と力があったばっかりに……」  アロモは黙ったままだった。マルグラントは泣くことを堪え、黙ったままの自分たちに構わず続けた。 「子供を生き返らせるために必要なのは体だった。死んだ子供と同じような年頃で、同じような背格好をした男の子。夫妻は苦労して、器になるのに相応しい子供を見つけた。親のない、その日その日をわけもわからず他人の家の軒先で過ごすような小さな浮浪児」  マルグラントはそこで言葉に詰まり、しばらく沈黙した。碧い目は手記に落とされたままだったが、その視線は宙を彷徨っていた。ここで自分から沈黙を破ってしまえば、マルグラントは動揺して話を止めてしまうかもしれない。  アロモもそれをわかっているようで、辛抱強く言葉を待つと、息さえ止めていたようなマルグラントがようやく深呼吸した。 「この手記にある禁忌は、人を蘇らせること。彼らはその子を連れ帰り、食べ物を与え寝床を与え、自分たちによく懐いたところで、その子の体に自分たちの子供の魂を呼び込むことにした。周到に用意して、万全の態勢で臨んだはずだった。でもそれは失敗した。力はブローテクに跳ね返り、命を呼び戻すことの逆、死に至る力となって彼は命を落とした……」 「本来であればその浮浪児の魂が体から出され、その子供の魂が入るはずだったのか」  アロモは俯いたままそう言ったが、返事のないことに顔を上げると、マルグラントは声も上げず、目から大粒の涙を零していた。 「アロモ……私……」 「わかっている。して、妻のほうはどうなったんだ」 「わからない……ここから先のことは、私の推測でしかない……でも彼女は多分、恐ろしくなって逃げたんだと思う。夫の悲惨な姿を見て、きっとアロモのことも死んだと思ったんだわ。でもあなたは死んでいなかった。小さいあなたは意識を取り戻したけれど、自分の名前以外の全部を忘れてしまった。そして自分が何をされたのかもわからないまま、恐怖に怯えてこの屋敷から飛び出して、何日もかけてオーザの森から抜け出した」 「その子供の魂を、半端に体に残したままでか……」  マルグラントは両手で顔を覆い、嗚咽を堪えるように泣き出した。
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