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「最初からおかしいとは思っていた。石の使い方はすべて奴から教わったが、力を使うとき、いつもそれが自分の力ではない、どこからか借りてきた力のように思えることがあった。俺は奴の魂が宿っているせいで、偶然石を使える力を手にしただけだったんだな」
『でも、本当は石使いじゃない君がここまで力を引き出して使えるのは君の身体能力と五感が人より優れていたからだし、何より努力したからだよ』
自分でも取って付けたような褒め方だと思ったが、アロモは冷静だった。彼からは怒りも悲しみも感じることはなく、自分のことよりも、むしろマルグラントが泣き止まないことのほうを不思議に思っていたようだった。
「しかし、どうして俺のことでそなたがそこまで泣く」
『君を愛しているからだ。そして、僕が今まで流せなかった涙を流してくれている』
「お前も泣きたいのか」
『わからない。涙の流し方なんて、もう忘れたよ』
「俺のことを恨まないのか? 俺が出て行けば、この体はお前のものだ」
『それは僕が君に聞きたいことだ。僕がいなければ、しなくていい苦労もあったはずだ』
アロモはまだ小さくしゃくりあげているマルグラントを見た。透き通るような白い肌のせいで、瞼が酷く赤く腫れあがっていたが、これほど顔を崩して泣いても美しく思える妖精のような彼女のことを、アロモが心から愛しく思っていることがわかる。
「俺も、そこで拾われなければ野垂れ死んでいたかもしれない。苦労はお互い様だろ。何より今こうして自分のために泣いてくれる伴侶に出会えたのは、お前がいてこそだ」
『僕も同じように思ってるよ。君が思うように、僕も彼女が愛しい』
アロモは立ち上がると、僅かに落ち着きを取り戻したマルグラントをきつく抱き締めて口づけた。ひとしきり長い口づけを終えると、マルグラントが耳元でそっと囁いた。
「私はあなたが紅の石使いだから、爵位があるから、他の人にない特別な力を持っているから好きになったんじゃない。あなたが何一つ持っていないただの普通の男だったとしても、私はあなたを愛してるわ。リックのことだって、私はとても愛しく思ってる」
マルグラントはそう言って、まだ火を点けたばかりの暖炉へ、静かにその書をくべたのだ。
*
意識を取り戻すと、ぼんやりと視界が開けた。目に飛び込んだのは、不安な顔で自分を覗き込むマザレとリックの顔だった。指がぴくりと動き、久しぶりに体の自由がきくことに飛び起きたが、体中に痺れるような激痛を感じ、そのまま腹を抱えて蹲った。
「アロモ、君、よくこんな痛みに耐えていられたな……」
呟いたことに気が付いていないマザレとリックが自分の背に手を当てたが、それが逆に痛みを増長し、思わず呻き声を上げた。
「アロモ!」
「アロモ、あなた全身から出血してるわ! 少し待ちなさい」
マザレの石がほのかに光り、自分の全身を優しく包む。次第に痛みが和らぐと、ほっと肩を撫で下ろし、自然とマザレに向かって微笑んでいた。
「ありがとう」
するとマザレは目を見開き、ぐっと自分に顔を寄せた。
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