第18話 リックとアロモ

6/6
50人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
「あなた……リック?」 「おばあちゃん? どうかした?」 「ああ、違うのよ、あなたはちょっと待っていてね」  マザレは隣のリックに微笑むと、再び目の前にいる自分に向き合った。 「そうなんでしょう? マルグラントが教えてくれたの」  今にも泣きそうなマザレの顔に、激しい郷愁を覚えた。全く懐かなかった自分に優しく微笑み、何度も根気強く石の使い方を教えてくれたのは彼女だった。 「そうだよ、マザレ先生」  その言葉に、マザレは無言のまま涙を流して自分を抱き締めた。やがて声を上げて泣き始めたマザレと、それを黙って受け入れる自分のことを、リックがきょとんとした顔で見守っていた。 「ああ、なんてこと。あなたはここにいて、でももうひとりジョイオの子供がいるの。サメロ殿下は、きっとあなたの弟に違いないわね」 「そうだと思う。でも石を使えるなんて知らなかったし、ずっと他人の空似なんだと思ってた。僕が母さんを恋しく思うから、余計に似てるように見えるんだと思って……」 「ねえ、あなたは誰? 父さんじゃないよね?」  横で大人しく自分たちを見守っていると思ったリックの顔は、不安に満ちていた。リックのためにも、既に目覚めているにも関わらず、自分とマザレの再会を邪魔しないよう大人しくしているアロモに体を返さねばならなかった。 「マザレ先生、会えて嬉しかった。先生のこと大好きだった。心配させてごめんなさい。後はアロモのことをお願い。彼は本当に、大切な人のためなら無茶をするからね」  そして、困惑した目で自分を見つめているリックに微笑んだ。 「大丈夫、今、君の父さんに体を返すよ。君の父さんは、とても強くて優しい人なんだ」  そう言ったきり、気を失うように後ろに倒れた。   ◆  はっと飛び起きたアロモの目つきはいつものように鋭く、リックは彼こそ自分の父だと認識した。臆することなく抱き着くと、何度も確かめるようにアロモの胸に顔を埋めた。 「父さん、今度はちゃんと父さんでしょ、さっきの誰なの?」  マザレは困ったように笑い、アロモも笑って顔を見合わせた。落ち着かせるように背中をさすると、リックはようやく顔を上げた。 「怖がらないでくれ。ずっと俺と一緒に生きてきた奴なんだ。それよりサメロをどうするか考えねばならん。奴は、本当に玉座に就くことになるんだろうな?」 「去年初めて王都の夏至祭に行って国王陛下を見たんだ。すごく遠くからだったけど、僕のほうを向いたときすごくびっくりした顔をして、でもすぐに笑ってたくさん手を振ってくれた……きっとあの人に間違いないよ。それにオートさんは国王陛下の剛健なる右腕、ヴェレーガル王立軍の誇り高き風の騎士って呼ばれるようになるんだ。陛下の治世は、クラーゾ将軍なくして成り立たないって言われてるくらい」 「そなたがやたらオートを庇っていたのはそのためか……しかし、サメロの右目は燃えるように紅く染まっていた。前に言っただろう、目の色が変わったら石に心を奪われた証拠だ。今更石を取り上げたところで、元に戻るのか?」  すると、アロモの言うことを聞いていたリックは閃いたように立ち上がった。 「そうだよ! 陛下は隻眼の名君主、サメロ様には、右目がなかったよ!」
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!