第2話 三つの勢力

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 書見塔が独立機関になるのと同じ頃、新たな機関として設立されたのがスクーロだ。石を使う力は元々血筋によって受け継がれるものとされていたが、時代を()るにつれ石使いとそうでない者の血が交じると、親が石使いでなくとも子や孫に石使いとしての力が現れるという事態が頻発した。  石ひとつで不可思議な力を思いのままに操る彼らは、その力を持たない者たちから羨望の眼差しを向けられもしたが、畏怖(いふ)されもした。また親が石使いでない場合、石の使い方がわからずに、何かのはずみで無自覚に力を発動して混乱を招くこともままあった。  事態を重く見た王室は国でも有数の優れた石使いたちを集め、国中から石という石を回収し、石使いを育成するための正式な機関を設けることにした。  石使いとしての力が顕現(けんげん)するのは十歳を過ぎた子供が多く、素質があると認められた子供たちは例外なくスクーロへ送られ、家族と会うのも年に数回と決められた。彼らにはひとりにつきひとつの石が与えられ、その力を使いこなせるようになって、初めてスクーロを出ることを許される。  与えられた石は生涯その石使いの(かたわ)らにあり、持ち主が世を去ればスクーロが回収し、それは再びスクーロの子供たちに与えられた。  マルグラントが書見塔とスクーロについて知っているのは世間で知られていることと同じ程度で、オートが言わんとしていることは、皆目見当がつかなかった。 「私が言っているのは、忘れ去られた過去のことです。ただそれの名残で、軍を擁する王室と、紅の石使いを輩出するためのスクーロと、禁書を預かる書見塔があるわけで」 「私はスクーロや書見塔の存在にも疑問を持っているの。素質があるだけで必ず石使いにならなきゃいけないなんておかしいわ。それに書見塔にある本は司書だけじゃなく、もっと多くの人に読まれるべきよ」 「あなたと話をしていると、ある方を思い出します。それよりあなたは、司書試験に幼くして合格された優秀なお方と伺っています」 「話をはぐらかさないで」  オートはうっかり自分の口が滑ってしまったことを後悔したようだったが、マルグラントの碧く澄んだ瞳を見つめると、重い口を開いた。 「互いが大きくなりすぎないよう、見張っているのです。国を治める王室は、強大な力を持つ石使いたちを。石使いたちは、禁書と、膨大な智慧と知識を独占的に所有している書見塔の書司たちを。そして書司たちは、この国の一切の(まつりごと)を任されている王室を。もうずっと昔から、そうして互いを監視してきたのです。必要なときには手を貸し、あまりに過ぎた行動を取ったときは制裁を加えて。しかしそれは随分昔の話で、今や本来の意味を知る者はおりません。いえ、もしかすると伯爵やヴィント様はご存知かもしれませんが、敢えてあなたに話すほど、剣呑な世の中でもありませんでしたから」 「それならサメロ殿下がアロモから紅の石を奪ったことは、関係の破綻に繋がるんじゃないの」  オートは神妙な顔をした。彼がここで呑気に暮らしているのは、これから来る時代の波の前に、少しでも心穏やかでいたかったからなのかもしれない。
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