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子供の頃はそのように、体に二人くらい人が住んでいるのは当然だと思っていた。自分が人と違うということを知ったのは、スクーロに入って随分時間が経った頃だ。
それをアロモに教えたのは、当時スクーロの学長になったばかりのマザレ・ノヴェンブロだった。彼女は四十にしてスクーロの頂点に立った才女でありながら、家族もなく、どこか寂しげな影を纏っていた。
スクーロに来たときからぶつぶつと独り言を呟き、それが一向に減る様子もないアロモに、マザレは様々なことを尋ねてきた。アロモが彼のことを正直に話すと、彼女は悲しげに微笑んだ後、アロモをきつく抱き締めた。
「その子のことは、他の皆には内緒にしておきましょうね」
その後間もなく、マザレはアロモを自分の養子として迎え入れてくれたのだ。
思えばその頃が、アロモがスクーロにいて一番幸せな時期だった。マザレはアロモにノヴェンヴロの姓を与えてくれたばかりでなく、他の生徒に見えないところで、アロモのことを実の息子のように可愛がってくれた。
アロモはマザレの期待に応えるべく、他の生徒たちに群を抜いて石使いとしての素質を伸ばしていった。しかしこうしたことが、他の生徒たちの反感を買った。
――アロモはマザレのお気に入り。ゆえに、あのように優秀で。
影でそう囁く声が聞こえてきても気にしなかった。強い石を持てるのは己の実力であることを確信していた上に、マザレもアロモの力を認めてくれていた。
自分が秀でた石使いになることでマザレが評価されるのなら、誰よりも強く優れた石使いに。そしてこのままずっとスクーロで、彼女を支えることができたらそれでいい。
紅の石の前に立たされるまで、心からそう思っていたのだ。
◆
紅の石の恐ろしさは、子供の頃から十分に聞かされていた。その器でない者が持てば、たちまち心を支配されて死んでしまう。石の継承がうまくゆかず、犠牲になった石使いたちがいかに無残な最期を遂げるか、スクーロの生徒であれば知らない者はいなかった。
それはアロモが十七になる頃だった。それまで紅の石を持っていた石使いが急逝し、スクーロでは急遽、後継者を選ばなければならなかった。しかし当時石使いのなかで最も優秀であると選ばれたはずの候補者が、噂の通り犠牲となってしまったのだ。
彼は石に触れた途端みるみる生気を失ったかと思うと、ごっそりと髪が抜け、赤く濁った目は落ちくぼみ、一瞬で十も二十も歳を取ったような姿になった。その場に崩れ落ちるように倒れ込むと、三日後あっさり命を落とした。
想定外の事態に、マザレを始めスクーロの石使いたちは大いに慌てた。紅の石の持ち主が逝去した際は、早々に次の石使いを選ばなければならない。持ち主のいない紅の石は成長を続け、やがて誰にも制御できなくなるからだ。後継者が見つからぬ場合、責任は実力のある石使いを養成できなかったスクーロにあるとされた。
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