第12話 父と息子

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「手伝おう」 「アロモ! 具合は大丈夫なの?」 「ああ。心配させてすまなかった」  アロモが微笑んで応えると、リックはほっとした顔になった。それからしばらく二人は無言のまま、鍬で土を掬っては、無残な馬の亡骸に掛けた。 「夏の鎮魂祭の夜に、亡くなった人を想って紙風船の灯を空に上げるでしょ?」  リックは手を動かしたまま、おもむろに口を開いた。 「ああ」 「うちは、いつも三つ上げるの。二つは母さんの父さんと母さんの分、でも残りのひとつは、父さんと母さんにとってすごく大切な人だったって言うだけで、誰のために上げるのか教えてくれなかった。あれってきっと、ヴィントさんの分だったんだ……」  リックの言葉にアロモは沈黙した。それを知っていたところで、結果が変わっていたとも思えない。すると、リックの目が不意に潤んだ。 「ヴィントさんが死んだの、僕のせいかもしれない……僕が、オートさんが死んだら困るって言ったから。先のことは、言わない約束だったのに」  みるみるうちに零れそうなリックの涙を、アロモが拭った。 「そなたのせいではない。それを言ったら、最初に俺が余計な手出しをしなければこんなことにはならなかった。無駄に多くの命を奪ってしまった……そなたは、自分の父がこんなに恐ろしい人間と知って失望しないか」  アロモの弱々しい声に、リックはアロモが自分以上に後悔していることを知った。鍬を上げる手を止めると、アロモにまっすぐ向き直った。 「怖いと思ったし、びっくりもしたけど、嫌いになんかならないよ。僕はちゃんと、父さんの優しいところも知ってるし」 「俺は優しいのか?」 「最近は優しくされた記憶がないけど、僕がもっと小さい頃は優しかったよ。それに嵐が来たり大雨が降ったり、何か大変なことがあって僕や母さんがおろおろしてると、父さんが決まって言うことがあるんだ」 「ほう。俺は何と言うんだ?」  リックは額の汗を拭うと、アロモのことを見た。 「『心配するな、大丈夫だ。お前たちのことは、俺が必ず守ってやる』父さんにそう言われると、僕も母さんもすごく安心する。どんなに大変なことがあっても、きっと大丈夫だって思うんだ」  アロモは自然と手を止め、自分を見つめるリックの顔を眺めていた。目の色こそマルグラントと同じ碧だが、顔は自分によく似ている。最初に現れたとき、なぜ自分の子供ではないと疑ってかかってしまったのだろう。 「俺には、守るものができるんだな……」  アロモは手にしていた鍬を勢いよく地面に刺すと、背筋を伸ばして胸を張り、リックに向かってにやりと笑った。 「リック。マルグラントを助けに行くぞ」
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